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虹の彼方 102




席に戻ると…
恭弥さんが、少しホッとした顔をして私を迎えてくれた。


(…?…)

どうかしたのだろうか?と思っていると…



「あまり遅いから、様子を見に行こうかと考えていた所だったよ。」


私が遅いのを心配してくれていたようだ。






「…すみません。ちょっと…時間を掛け過ぎました。」



「いや、別に良いよ。女性の支度に時間が掛かるのは承知している。」



「…はい。」



「ただ…この街は、色々と物騒な連中も多いからね。万が一、という事もある。」
「ニックの様に…君を攫いたくなるような輩もいるかもしれない。」



「そんな…私みたいなお子様に興味を持つ人なんて…いないと思います。」







恭弥さんの言葉に、少々苦笑しつつ答えた。

欧米に住んでいた頃からずっと感じていた事だけれど…
同年代の欧米人の女性達に比べて
…正直な所、私は…かなり年下に見える。

もっとハッキリ言えば
…まるでお子様に見える…という事だ。


先日のパーティでも、何名かの人に…
明らかに17・8歳ぐらいに見られているな…という事を言われたし。
ニックは…きっと変わり者だっただけというか…
日本人である私が珍しかっただけだろう。

そんな事を考えていると…







「…君は、相変わらず…何も解っていないんだな。」


恭弥さんに、軽く溜息を吐きつつ言われたけれど
…何が解っていないのだろうか?

そんな私を見て…恭弥さんが言葉を続ける。




「確かに…欧米人の女性達に比べて君は年齢的に若く見える。」
「…だけどね、そんな事に関係なく…君は、とても魅力的な女性だ。」



「……え?……」



突然の恭弥さんの言葉に…驚いて、二の句が継げない…
私が…魅力的?
そんな話…学生時代も、ボンゴレでも聞いた事がない。

恭弥さんは…一体何を言っているのだろうか?




「…優衣…。君は…とても可愛らしいし、素敵な女性だという事だよ。」



「…………。」


直ぐ隣で、真顔で言って来る恭弥さんの顔を見ていたら
…だ、段々と…恥ずかしくなって来た…。

どうしよう…
きっと…顔がどんどん赤くなっている気がする。








「もう少し、その自覚と…自分に自信を持ったらどうだい?」



「…………。」


いや、あの…自覚とか自信を持てと言われても
…無理です。

寧ろ、どちらかと言うと
…今は劣等感の塊状態というか…

恭弥さんと一緒にいる事で、
常に引け目を感じているというのが…現実です。


…なんて事を心の中で考えるけれど…
真顔で言って来る恭弥さんに…言い返せない。







私の様子を見て1度深い溜息を吐いて
…再度、恭弥さんが口を開き…



「僕は…、………。」



でも…何を思ったのか急にその言葉を飲み込んだようだ。



そして…一呼吸置いた後…


「兎に角…今は仕事柄的にも、色々な事に十分に気を付ける必要がある。」
「…だから、君も…もう少し意識して周囲に注意を払うようにして。」



と言った後…私から視線を外して黙ってしまった。




「…………。」



会話を打ち切られた格好になり
…私の方からも話し掛け難くなった。

丁度、オペラの開演を告げるベルが鳴った事もあり
その話はそれで終わりになってしまった。









オペラを見つつも…気になって、先ほどの事を色々と考える。
結局…さっきのは…何だったのだろうか?

何だか、やたらと褒められた気がする。
それも…かなり恥ずかしい感じで。

あんな真顔で恭弥さんに…
『魅力的・可愛らしい・素敵な女性』なんて言われたら
…たまったものじゃない。


…正直、恥ずかし過ぎる!


あの時は…本気で
『一体、どうしたのだろうか?』と疑問に思ってしまった。

でも、途中から…半分呆れられたような…感じだった。
あれも…やっぱり意味が解らない。






恭弥さんが…自分の気持ちに正直な人である事は知っている。
嘘を言うような人でない事も良く知っている。

でも…先ほどの言葉を素直に聞くのは
…ちょっと抵抗がある。



自分で、“自分がどの程度の人間なのか”
…はだいたい、解っているつもりだ。

あんな風に褒めて貰える程…出来た人間ではないし
…容姿だって人並だと自覚がある。



では、何故…あんな事を言われたのだろう?
私が、もう少し自信を持った堂々とした態度になるように…だろうか?
恭弥さんと並んだ時に…少しでも見劣りしない、為?


う〜ん…とオペラを観劇しつつ、
時々チラリと恭弥さんの方を見ては考えるけれど…
結局、良く…解らなかった。











その後…オペラの休憩時間になり
早速、アレックス夫妻と接触をしようと試みる事になった。

ロビーで知り合いと挨拶をしているアレックス夫妻を見つけて
会話が途切れた所を見計らって
如何にも、偶然見つけたように…声を掛ける。




「…!…。こんばんは。又、お逢い出来て嬉しいです。」



そう言って夫妻に話し掛けると…



「おぉ、またお二人に会えるとは、嬉しい偶然ですね。」


アレックスも嬉しそうに応じてくれた。





恭弥さんが…

「今夜のオペラの舞台は、とても素晴らしいですよね。特にプリマ・ドンナの彼女は凄いと思いました。」


そう言ってオペラの話を向けると



「僕もそう思います。」
「元々、僕は彼女の大ファンなのですが…今宵の彼女は特に素晴らしい!」



と如何にも嬉しそうに話す。







その後、暫くは
4人でオペラの話題で盛り上がって色々な話をする。

恭弥さんの話振りは
大変なオペラファンであるアレックスと会話をしても
全く途切れる事なく進むのが…凄い。



私は事前に必死に勉強して来たので、ある程度の事なら解る。
昨日も、今日の演目についてや
出演するオペラ歌手の事について必死に勉強した。

だからこそ…何とかギリギリ会話について行けるのだけど…
恭弥さんの話振りでは
『自分もオペラファンなので普段から良く知ってる』という感じだ。


しかも、会話内容がアレックスのツボを完全に突いているようで…
アレックスも会話をしていて、本当に楽しそうに嬉しそうにしている。


…やっぱり、この人は凄い人だ…


知識があるだけでなく
完璧に相手に合わせた会話をここまで自在に出来るなんて。

適当に会話に混ざりつつも
…恭弥さんの事を感心しつつ見ていた。












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あきゅろす。
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