[携帯モード] [URL送信]
虹の彼方 101





完全に男達の気配が消えた所で…
優しく口づけをしていた恭弥さんが、そっと離れた。


今までにない長いキスをした事で、真っ赤な顔になっている私を見て
一瞬フッと笑みを零した恭弥さんは…
私の頭に軽くポンと手を乗せて…声を出さずに静かに笑っている。

これは…一体、何だろうか。


労ってくれたのか、からかわれたのか
…どちらなのか微妙な感じだ。




でも、声に出して尋ねるような事は出来ないので
黙って恭弥さんを見上げる。

私の複雑な顔を見て…もう一度、僅かに微笑した恭弥さんが
無言のまま…
今度はスッと…パオロに鋭い視線を向けた。




私は相変わらず
しっかりと恭弥さんに抱擁されたままの格好を崩していないので
身体がぴったりと寄り添っていて…かなり恥ずかしい。

けれど、直ぐ近くに第二ターゲットのパオロがいるのだし
…騒いだり下手に動いたり出来ない。


必死に羞恥心と闘いつつ
…私も、そっとパオロの方に視線を向けた。





…そこには…
項垂れて地面をじっと見つめている…パオロの姿があった。







その後、パオロは私達がいる方とは逆の方角に移動し
一度駐車場を出て行った。

帰ったのかと思っていたが、
草壁さんが到着したと連絡が来た後に車寄せに行ってみたら
先程とは全然別の方向から歩いて来て、
パーティ会場に入って行くパオロを見つけた。


どうやら、ぐるっと遠回りをして
時間を稼ぎ&マフィア達とは違う方角から来たように工作したようだ。

パオロの事は気になるが…
今日の所は帰る事にして、そのまま私達はパーティ会場を後にした。







ホテルに戻る車の中で、恭弥さんは草壁さんに

『パオロが、ポルポ・ファミリーの者と接触をしていた。』
『早急にパオロとポルポの周辺を洗い…どんな関係なのか調べて。』
『パオロと一緒にいたメンバーは○○、○○、○○…』

と指示を出した。


…流石、恭弥さんだ。

私は、一番特徴のあった白い髭の男性以外は
覚えていなかったし、髭の男性の名前も憶えていなかったのだけど…
恭弥さんは、あの場に居た
全員のメンバーの名前まで、解っていたようだ。




それから数日しても…
パオロとポルポ・ファミリーがどんな関わりがあるのか
まだ、ハッキリとはしなかった。

どうやら…
ファミリー内でも極秘で動いている案件と関わりがあるらしい
という事までは掴んだけれど
それ以上の事が解らない、という事だった。









そして今日は、アレックス夫妻が…
趣味のひとつであるオペラ鑑賞に行く予約をしている日だ。

当然のように、私達の分のチケットも用意されている。

それも…お互いの顔が
しっかり解るぐらいの近い位置の席の分がちゃんと用意されている。

夜講演のオペラだし、会場も格式のある場所である物だ。
イタリアは、そこまでドレスコードには煩くない場面も多々ある国だけれど
それでも今日のオペラはお洒落をして行く必要があるだろう。




先日のパーティでは着物にした事で、注目を集め過ぎて失敗だったので
今回はどんなドレスにするか…
迷いに迷って、なかなか決められなかった。

考えた末…元々席が近いのだし
お互いに気が付いて挨拶が出来れば良いので
会場内で、あまりに目立つ必要はないと思い…
色もデザインも、少々控え目な印象のイブニングドレスを着用する事にした。






恭弥さんのエスコートに従って
オペラの会場に入り、自分達の予約席に向かいつつアレックス夫妻を探す。
…が、少し早く来た為か、まだ会場内は人も少なくて
アレックス夫妻も来ていないようだった。


時間潰しも兼ねて、一度化粧室に行く事にして
…恭弥さんに一言告げて、1人で化粧室に向かった。







大きな鏡に向かい…リップを付け直そうとして
…ふと…先日の長いキスを思い出した。

ただ柔らかく触れ合っているだけの…優しい口づけ。

物凄く…恥ずかしかったけれど
…でも、嫌では無かった。




初めてのキス以来、なんのかんのと
キスをする事に抵抗が減って来ているような気がする。

それは…
“私の女優としての演技力が上がって来た”
という事なのだろうか?

それとも、“単なる慣れ”なのだろうか。




「…………。」





一度、口紅を綺麗に落とした所で
…そっと、優しく…自分の唇に触れてみる。

ふにゃりと柔らかい感触が…自分の手を通して感じられる。


あの長いキスをしている時、恭弥さんも
…この柔らかさを感じたのだろうか?

それとも…仕事に集中している時だし
演技でしているだけなので…そんな事、感じもしないのだろうか?




(…………。)




何だろう…良く解らないけれど
…何となくモヤモヤとする。

この説明のつかない変な感情は…一体、何なのだろう。









暫く、鏡を見てボッーとしていたが
…ハッとして時計を見る。

時間を確認して、ホッとした。
あぁ、良かった…まだ、時間には十分に余裕がある。


何をボンヤリしているのだろう…
今は大事な仕事中なのだ、気を引き締めないと…!


自分の中のモヤモヤした気持ちを、無理矢理に押し込めて…
鏡を見つつ、リップをキュッと綺麗に引いて
…自分の気持ちを引き締めた。









化粧室から出て、自分の席に向かおうとしたら…
丁度、アレックス夫妻が到着し…自分達の席に向かっている所を見掛けた。

良かった、ちゃんと来てくれた。
…後は、接触するチャンスを待つだけだ。





それにしても…
アレックス夫妻は、なんて素敵な雰囲気のご夫婦なのだろうか。

ちょっと見ただけでも解る程に、とても仲が良いようだ。



アレックスが夫人をエスコートする姿にも、エスコートされる側の婦人にも
お互いがお互いを思いやっている感じや
心から信頼しあっている感じが…滲み出ている。

なんだかちょっと…羨ましく感じる程だ。

正確には…憧れる…という感じかもしれない。









[*前へ][次へ#]

8/48ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!