大空に抱かれて 9 キッチンに連なるドアを開けると、 予想通りに、妻の優子が楽しそうに夕飯の準備をしている所だった。 その姿を見て、心の底からホッとする… だけど… それを悟られないように、さり気無く声を掛ける。 「…戻っていたのかい?」 その声に反応し、 振り返りつつ、満面の笑みで優子が返事をする。 「…恭弥さん…」 「はい、少し前に戻りました」 「留守の間…色々と有難うございました。」 「うん。…お義母さんの足の具合はどう?」 「かなり腫れも引いて来て…」 「痛みも和らいで来たようですし、大丈夫だと思います。」 「この後も、無理をしないと良いけどね。」 「…実家に、もう一日ぐらい居なくて良かったのかい?」 「もうそれほど痛くないし、決して無理はしないから…と言うし…。」 「…それに…」 「…?…」 「…家の事も気になりますので、帰らせて頂きました。」 にこやかに笑顔で告げる優子の顔を見て… あぁ、彼女は彼女で… 僕と子供達3人という状況を心配していたのだ…と気が付く。 が、ココで素直に “早く戻って欲しかった”…等とは言える筈もなく。 僕の口から出た言葉は… 「…別に、僕達は大丈夫だよ。何も問題なかったし。」 「もう2・3日ゆっくりして来ても良かったのに。」 と、心にもない台詞。 「…有難うございます。」 「でも、そんなに家を空けると、私が寂しくなりますので。」 とニッコリと微笑んで…再び夕飯作りを始めた優子。 何も言わないが… きっと何もかも気が付いているのだろう。 子供達が、彼女に何か言ってる可能性もあるしね。 実に嬉しそうに、 僕の好物ばかりの献立らしい夕飯を作っている優子の姿を見て… さり気無く、僕の今日一日の苦労?を労わってくれて… 感謝してくれているのが伝わってくる。 こんな姿を見ると… さっきまで… 「どうして僕が、こんな事で悩んでいるんだ…!」 と、イライラした気持ちを抱えていたのが嘘のように… ……穏やかな気持ちになる…… …どうやら僕は、優子がいると… 魔法にでもかかったみたいに…落ち着いて穏やかな気持ちになるようだ。 彼女の言葉が、表情が、行動が… その全身から感じるオーラが…僕を優しく包んでくれる。 『本当に、僕は彼女に骨抜きだな…。』 と…自嘲気味に考えるが、 同時に、…それも悪くないと思ってしまう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |