帰港地 22 「この僕が、わざわざ挨拶に行ったのに…ね。」 「…あの時は、両親が失礼しました。でも、両親は私の心配をしてただけなんです。」 「僕の所に来るというのに…何の不安や不満があるって言うのさ?」 「この並盛で一番安全な場所だ。」 「そうかもしれませんが…色々な噂があるし…」 「噂、ね…。どうせ大した内容じゃないだろう?」 「そんな物に惑わされて、自分の娘が惚れた相手を…信じられないなんてね。」 「…お言葉ですが…貴方に関する噂は、普通の人なら怖がる内容ばかりです。」 「ふぅん?…両親を庇うんだ?」 「…それは…。これでも、育てて頂いた両親には感謝していますし…。」 「じっくり時間を掛けて、説得する事をしないで…ココに来てしまいましたので。」 「そう。…なら、今からでも行けば?」 「…え?今から両親の所へ?」 「普通、結婚する事になったら、真っ先にご両親に報告をするものだろう?」 「この機会に…じっくり話をしてくると良いよ。2.3日いや、一週間ぐらいゆっくりして来なよ。」 「…あの…、良いのですか?」 「うん。もしも、君がご両親に反発する気持ちが強いなら…行かせるつもりは無かったけれどね。」 「どうやら真理子は…両親とちゃんと話し合っていない事を、後悔しているようだしね。…本当は、会いたかったんだろう?」 「でも、僕に遠慮して、…会いに行かないばかりか連絡もしてないみたいだしね。」 「…はい。その通りです。…それで、こんな話題を振ったのですか?」 「そうだよ。出来れば、関わりのある人達全員に…祝福して貰えればベストだろうしね。」 「…有難うございます。……嬉しい、です……。」 まさか…彼がここまで気を遣ってくれるとは… あまりに嬉しくて、自然と涙が出て… ポロポロと頬を伝う… 「泣かなくて良いから。…ほら、準備をしなよ。」 「僕が送って行くから…ついでに挨拶もしとくよ。」 …素直な言い方ではないけれど、 雲雀さんは、私と両親の仲の事を心配してくれていたのが分かり …とても嬉しかった。 しかも、結婚の挨拶も…してくれるらしい。 (“ついで”なんて言い方をしてるけどね) まさか彼が…そんな事まで、 ちゃんと考えて、してくれるとは思ってもみなかったので 驚くと共に…本当に私の事を考えてくれているんだ、と実感した。 何しろ、悪い思い出しか無い…私の両親の事だし… 当然のような顔をして、結婚式にも呼ばず…存在を総無視して進めるのかと思っていた。 でも…ちゃんと… 皆に祝福されて結婚式が出来るように… 両親と和解し、普通の付き合いが出来るように… そんな事まで、考えてくれるんだ… あの雲雀さんが… 私の為に、そこまでしてくれるなんて…想定外の驚きと喜びだ。 でも…そんな事を言ったらきっと… 『君、僕の事を何だと思ってるのさ?』 と… 途端に、不機嫌顔になるだろう。 …想像して、つい笑みが零れた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |