時を重ねて 7
フッ…と、軽く溜め息をついた彼が、
背後から私を、軽く抱き締めたまま…話す。
「寂しいなら寂しいと、…ちゃんと言いなよ。」
「だけど、貴方は…お仕事で忙しくて帰れないのに…」
「大変なのは、恭弥さんの方なのに…」
「いくら私でも、そんな我が儘な事までは、…言えません…よ。」
「だからって、こっそり泣かれたんじゃ、…僕のほうが心配になるんだ。」
「…良いから、少しは甘えなよ。」
「全ての希望は、叶えてあげられないと思うけど」
「…何とかなる時は、してあげるから。」
「…そんなに、甘やかさないで下さい。」
「…私が…もっと、我が儘になって行きます…。」
「全く…、優子は素直じゃないね。」
「…本当に頑固で…そんな所は、昔から変わらないな。」
「恭弥さんは…変わりました。」
「昔はもっと…厳しかった気がします。」
「…そうかい?」
「君に…本当の意味で、厳しくした覚えはないんだけど…。」
「まぁ、そうだね…昔よりは丸くなったと自覚はあるよ…。」
「…環境も、随分変わったしね。」
((…クスクス…))
「…何、笑ってるの。」
「いえ…先日、草壁さんと会った時に少しだけ…」
「恭弥さんの、中学生時代の話を、聞いたのを思い出して…」
「…中学の時の僕?」
「はい。」
「風紀委員長で、…学校をとても愛してて…」
「理不尽で、容赦ない最強(最凶)の人だったと(笑)」
((…哲…咬み殺す…!))
「…そんな20年も昔の話、…もう忘れたよ。」
「ふふ…そうですか?」
「だけど…小動物には優しかったとか…?(フフッ)」
((…余計な事まで言って…。))
((…覚悟しておくんだね…哲…。))
「気高く孤高でありながら…」
「同時に多くの人を纏(まと)める力を持った、恭弥さんの事を…」
「草壁さんは、当時からずっと…尊崇していたそうですよ。」
「それに、“恭さんは天才ですっ!”…と、褒め称えていました…。」
((…………))
「全く…。」
「2人で、何を愉しそうに話しているのかと思ってたけど」
「…そんな話をしてたのかい?」
「はい。」
「…だって、知りたかったのです、…もっと貴方の事を…。」
「もう、出会って今年で11年目、…再来月には結婚10周年だ。 」
「なのに、今更、…中学の時の僕の事を?」
「出来るだけ多く…」
「もっともっと、恭弥さんを理解したいのです。」
「…知らない事が、ないくらいに…。」
「ふぅん。」
「…で、知って…優子はどうしたいの?」
「貴方の事を、もっと…」
「しっかりと、支えられる存在になりたいのです…。」
「(クスッ)…やはり、優子は変わらないね」
「…出会った頃からずっと、君はそう言い続けてる。」
「だって…それが、…それだけが、私の願いですから。」
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