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時を重ねて 5




真っ暗で…誰ひとり居ない、海岸沿いの駐車場に
ゆっくり車が停止する。


「…降りるよ。」


そう一言、告げて…車のドアを開ける彼。

私もドアを開け…車外に出た。 
とたんに、少し冷えた外気が、身体を包む。






真夜中の海岸は、
車のライトを消すと、月明かりだけが頼り…
目が慣れるのに、少し時間が掛かった。


眼の前には…
穏やかな潮騒を奏でる、…真っ暗な海。  

遥か遠くに、僅かに光が見える、あれは…
…灯台と…船、だろうか…


穏やかな波の音が、耳にとても心地よい。






見上げれば…
今にも降って来そうな程の…満天の星空。


「わぁっ…!…凄いっ!」
 

久々に見た、綺麗な星空に、…思わず感嘆の声を上げる。

隣の彼に、クスッと小さく笑われた…






「少し…散歩しようか。」


そう言いつつ、歩き出す彼…
急いでその後を追い、隣に並んだ。








寄せては返す波の音を聞きながら、
…2人でゆっくり歩く。

時々、足元でパキッという音…
きっと貝殻や、海岸に流れ着いた小枝でも、踏んでしまったのだろう。



砂に足を取られて、少々歩き辛い…
近くに、人口の光はないので、頼りは月明かりだけ…

今夜は、満月に近い月夜の為…
比較的明るく、砂浜を鈍く優しい光が照らしている。






海に行くと聞いたので、歩き易いスニーカーを履いているけど…
それでも、砂に埋まりそうになる。

…すると…
さり気無く、隣から差し出される手。

無言のまま…チラッと私の方を見る恭弥さん…。





少し微笑んで、
そっと、彼の手に自分の手を重ねたら…

途端に…ぎゅっと、しっかり手を握られた。




「足場が悪い。」
「優子はスグに転ぶから…気をつけなよ。」



「…はい。」



…さっきまでの不安定さが、無くなる…。







恭弥さんに、手を握られただけで…
こんなにも安定する自分に
…改めて、その存在の大きさを知る。


思えば何時も…そうだった。


何時だって彼は、ぶれない人。 
その内容が何であれ…ぶれないし、安定している。




一方、私は心配症で…色々と不安が一杯。

彼ならば大丈夫…と、信じてはいても…
やっぱり不安を完全には拭えない。




…だけど…
こうやって彼に手を取って、導いて貰えると…
途端に、そんな不安は消えていく。


…不思議な程に、深い、この安心感…。




そして、何時だって…
今みたいに、私が不安定になりそうになると、
さり気無く手を差しだして、支えてくれる。







彼に心配をかけまいと…隠しているつもりでも、
勘の良い彼は、スグに気がついてしまう…。

隠し切れてない自分に、嫌悪しつつ…
でも、嬉しいのも事実…




――何とも複雑な、幸福感。










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