*1*
マジ嫌んなる。
なに考えてんだか、あのバカは。
ニパッと可愛い顔で笑いやがって。
「なにが『愛されてるよね〜♪』だ。ったく、バカッ」
弟の心配して悪いか!?
兄貴なんだから、心配くらいするだろ普通!?
ベンチシートに腰を下ろし、昨夜の一部始終を思い出してはブツブツと口の中で文句を言っている千隼(ちはや)に、先輩の東郷(とうごう)が怪訝そうな眸を向けてきた。
「貝塚? お前さっきからなにブツクサ言ってんの?」
「あっ……、と、東郷さんッ」
千隼が慌てて立ち上がり挨拶しながら深く頭を下げると、東郷も挨拶代わりに軽く片手をあげる。そのままベンチシートに腰を下ろした東郷は、千隼にも隣に座るようにと手の動きだけで促した。
最近人気の若手俳優に顔が似ていると言われる東郷は、持ち前のルックスと人当たりの好さで男女問わず慕われている。気さくで明るい性格もあって、後輩たちにもすこぶる受けが良かった。
例に洩れず、千隼もこの先輩にはなにかと世話になっている。
「で? どうしたって?」
「え……別に」
再び問われ、千隼はシューズの紐を結び直す振りで上半身ごと顔を下向けた。
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