*2*
「これと言っては、別になにも……」
大学で千隼が所属しているボクシング部のジムだ。練習中だから当然周りには他の部員たちもいる。
周りに聞こえていたかも知れない。
気づいてしまえば、気恥ずさになんだかいたたまれなくなって、知らず頬が赤らんでくる。
その顔を見られまいと押し黙り下を向いたままの千隼に、東郷は気遣いの声をかけてきた。
「調子よくないのか?」
「いや、本当になんでもないんですよ」
「水臭い奴だな。悩んでんじゃないのか? 軽いことだっていいさ、相談にのってやるって」
軽く背を叩かれ、千隼はようやくにして俯(うつむ)いたままだった顔を上げ、東郷を見た。
「悩みなんて特には……。それに調子だって悪くないですよ」
「そうか? だったら質問を変えよう。さっきはなにをブツブツ言ってた?」
「メチャクチャ下らないことなんです。ホントもう勘弁してくださいよ〜」
「下らないことだったら軽く言えって。軽〜く、な?」
笑って促されてしまう。
こうなっては逆らえない。なにせ相手は世話になりっぱなしの先輩様なのだ。
内容がとてつもなく下らないとは解っているので、千隼にしてみればすぐに打ち明けてしまうというわけにもいかない。
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