続・死神とダンス♪〜君を救う光〜
09.開かずの部屋ぁ★
手を引かれている、ぼく。
助けられたのだと気付き、もう大丈夫というように手を強めに握ると、しのぶはニッコリさっきの笑みと違う自然な笑いに変わった。
「ゴ…未豪に呼ばれているのはホントだよ。お昼もちゃんと用意しているはずだから、一緒に食べよう」
「そう言えば、2人はイトコなんだよね。でも、2人で仲良くこの学園に来るなんて、本当に仲がいいんだね」
ぼくのこの発言は無神経だった。
しかし、一度出た言葉を戻せるはずもなく、せっかく友達になってくれた、しのぶは複雑そうに笑う。
「えっと…。実は僕、両親いないんだ。で、僕の保護者がゴ…未豪で。未豪の職がこっちになったついでに僕はついて来たんだ」
「ご、ごめん。ぼくも両親がいなくて辛いことを知っているのに………。ほんと無神経なこと言ってごめん!」
「う、ううん!もう昔のことだし…それに今は頼れる未豪が一緒にいてくれるし…。萌葱は、誰か頼れる人がいる?」
この質問にぼくは言葉を詰まらせる。
数日前なら兄だと言えたが、兄はもういない。
数か月前なら友人もたしかにいたはずだけど、今はいない。
理事長はぼくに気を使ってくれるけど、本音で話したことはなくて…どちらかというと『もうこれ以上迷惑かけたくない人』という感じだ。
結局、ぼくはどれほど考えてみても誰一人名前は挙げられなくて…。
「大丈夫だよ。萌葱が今誰も思いつかなくても、きっといつか萌葱を大切に思ってくれる人は必ず現れる。それに…」
続くしのぶの言葉は、本当に嬉しくて…志似我先生のところに行くまで、ぼくは涙を流さないようにするため、下を向いて繋がれた手に力を込めていた。
「それに、今は僕が側にいるからね…」
しのぶの言葉………ずっと忘れないよ…とても嬉しかったんだ。
これまで兄がずっと見守ってくれていた。
その兄がいなくなって、はじめて見つけた光。
ぼくは、まだこの学園で頑張れるよ、お兄ちゃん。
しのぶに連れてこられたのは、あまりのカビ臭さに不良もたまり場にできないとして有名な、開かずの部屋の歴史資料室。
ぼくが入るのを躊躇っていると、しのぶはノックもなしに扉を開け、ぼくの手を引いたまま室内に入る。
驚いた………確かここは、汚い歴史資料室なのに、なぜかきれいになっている。
不思議そうにしていると、しのぶは昨日入寮する前に、死ぬ気でこの歴史資料室を掃除したと教えてくれた。
なるほど…だから、昨日は夕方になってから、しのぶは部屋にやって来たのか…。
ぼくは、てっきりしのぶがぼくの噂をどこかから聞き、部屋の交換など申請していると思っていた。
しのぶがそんなことをしていると知っていたら、幾度も部屋で大量のため息を付くことはなかったのに…。
ちょっと恨みがましい目で、歴史資料室内を見まわしてしまう。
それにしても、いつ学園に来たのかは知らないが、あの開かずの部屋とも言われていた部屋を一日…いや、数時間で掃除してしまう、しのぶに疑問がある。
これは、今日の朝食時に判明したのだが、しのぶはものすごい不器用さんだったのだ。
食堂に行くと何かと嫌がらせが起こるので、当然ぼくは朝は自炊派。
その時、しのぶも一緒にってことで、皿を出してもらおうとしたら………うん、なぜかな?皿を2枚、マグカップ1個が破壊されたんだよね。
しかも、お手伝いということで卵を割ってもらったら………なぜだろうね、卵が破裂するくらいの勢いで飛び散り、キッチンが卵だらけになって…。
この時、しのぶは、とてもすごい不器用さんだと認識した。
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