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男前なんかじゃない!!2
074.カイリの企み。(Side.卓磨)

 扉から勢いよく出て来て、俺の存在に気付くことなく走りゆく、結城君。

「これで踏ん切りはついた?」

 閉じられた扉を再度開いて、佇むカイリに訊ねれば「盗み聞きとは趣味が悪い」との返答。

「さすがに結城君と葉山君の間に入り込む隙はないね」

「そんなの去年からわかっている…」

 それでも、カイリ、君は思わずにいられなかったのだろう?『もしかしたら』の可能性を。

「2度目の失恋もヤケ酒?」

 昨年度と同じことが起こるのかとため息を抑えつつ聞くが、カイリはニヤリッと、笑い「そんな暇ねーよ」の返答。

「へぇー、さすがに成長したね、カイリ。で、次の企みは?」

「宗次郎が、会長選に立候補する時点で企みは終了。あとは、体育祭を待つだけだ」

 やっぱり、カイリが団長に立候補したのは、結城君を後押しするためか…。しかし、それ以外にもカイリは、何かを考えているはずだ。



 そんな俺の思いがカイリに伝わったのか、近場の椅子にドカリッと座り、指をチョイチョイッ動かし、こっちに来いと呼び寄せる。

 俺はそれに苦笑いで答えながらも、カイリの隣の椅子に座るが、次の言葉を聞いた瞬間、あまりの台詞にさすがに憎々しくなった。

「卓磨は3年だろ、だから生徒会は引退。楽しみは体育祭に取っておけよ」



 いつもは、何でも俺に話していたカイリ。

 カイリは、世界的企業一乗寺グループを背負っていく身。

 そのため、それを利用しようとする大人やその子供を退けていくうちに、友人と呼べる者はいなくなった。

 唯一つながりがあったのは生徒会だが、それもどこか付き合いは希薄で、俺はいつも心配していた。

 しかし、それも昨年から少しずつ変わったきた。

 葉山君とは、ドライの付き合いであったはずなのに休日など一緒に遊ぶようになったし、煩がっていた双子右左とも、何だかんだと言って仲良くやっている。

 北瀬も駄犬と言いつつ、一緒になんかやっているようだし、確実にカイリの世界は広がってきている。

 それは、一重に結城君のおかげと感謝はしているが、感謝は………しかし、今のけ者にされると、何と言っていいのか…。

 でも、俺の微妙な顔つきにカイリは、年相応に笑っていて…。

 感謝するよ、結城君。



 鞄を手にし教室を出る時、カイリは強い目つきをし窓に広がる夕日を見ている。

 嫌に真剣な目つきに首を傾げると、カイリはひとり言のように呟く。

「昨年の体育祭で宗次郎は本気で戦っていない。今度は、宗次郎と真剣勝負ができる」

 確かに結城君は、あの時キャラ作りをしていて挨拶も作りものだし、競技も結局出ていなかったな。

「今度いつ本気になった宗次郎と勝負できるかわからない。オレは宗次郎に会長になることを望むが、それよりも宗次郎と真剣勝負で勝ちたい………なんて思っているなんて、卓磨、オレなんか矛盾しているよな」

 カイリの言葉にビックリする。言葉は違えど、その台詞は結城君の父、英次さんの言葉でもあったから…。



「空也とはいまだ、本気で勝負してもらえない…。でも、いつか空也を超えてみたい」



 この二つの親子はどこまで行っても、ライバル関係になるようだ。

 苦笑いしつつ、このことをいつかカイリに話そうかなど俺は微笑んだ。


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