男前なんかじゃない!!2
007.マタドール。
スイちゃんと転入生は、4時に校門前に待ち合わせしていた。
スイちゃんは時刻ちょうどに校門に到着し、そこで転入生君と初対面したそうだが、それは何とも言えない状況の中。
門の前にはオタク系の生徒が1人いた。それに対応していたのが門番のカトーさん。
スイちゃんはそのオタク系の生徒が転入生だと思い慌てて駆け寄ったが…。
「なぁ、なぁ、おじさん、名前なんてーの!!オレ、今日から1年に転入して来た仲谷光輝(なかたに こうき)てんだ!よろしくな!!」
「わしは門番でカトーと言います。君の案内は今来るはずだから―――」
「あっ!!門番なら門は開け放題だよな!!オレ、夜は街に行きたいんだ!!夜になったらここに来るから門を開けてくれよ!!」
「そ、それは、門番の規則に反しますし………わしの一存では―――」
「なに言ってんだよ!!オレはここ四ツ谷学園理事長、奈留人おじさんの甥だぞ!!オレが来たら門を開けるのは当たり前だろ!!」
上記↑のあまりにひどい発言にスイちゃんは、呆然として転入生に近づく足を止めてしまったそうだ。
カトーさんは60歳半ばの門番さん。穏やかな人柄から生徒にも慕われ、不良の人達も分け隔てなく挨拶することから関係も良好。
そのため、カトーさんに無理難題を言う者はいない。
時より、不良の人達に説教をかます姿はあまりに凛々しく………定年してもおかしくない年齢ながら、理事長が頼み込み門番として働いてもらっている。
それを、自分が理事長の甥だから門を開けろなどと………さすがのスイちゃんも怒りに顔を歪めるが、それより早く転入生君がスイちゃんに気付き、次の瞬間…。
ダッダダダダーーー!!ガッシッ!!
いきなりスイちゃんに向かって走りだし(←突進とも言う)、抱きつかれたそうだ。
スイちゃんは何とか転ばず転入生君を受け止めたが、気持ち的には闘牛士のマタドールになった気分だったと言っていた。
あれ?でも、スイちゃんがマタドールなら牛(転校生君)をムレータ(赤い布)でサラッと交わさないとまずいんじゃい?
ぼくがこんな思っていたら、確かにスイちゃんはマタドールとして牛(転入生君)を交わさなかったことになり、大変な事態になったようだ。
「オマエ、キレーだな!!オレ、1年に転入して来た仲谷光輝ってんだ!!オマエは?」
「えっ?」
「なんだよ!早く名前教えろよ!!もしかして、テレてんのか!!」
矢継ぎ早の言葉にスイちゃんも対応が遅れて、引きつった笑いを浮かべ自己紹介をし、理事長室の案内を始めようと思ったんだけど…。
「翠(みどり)、なんでそんなウソな笑いしんだよ!!オレの前ではそんな笑いしなくていいんだぞ!!」
「え、えっ?『翠』?」
「『翠』だろ?もうオレ達友達なんだし、オレのことも名前で呼べよな!!それと、友達のオレにはウソの笑顔はなし!!ホラ、ちゃんと笑えよ!」
これには、スイちゃんも笑うのを通り越して、無表情になったそうだ。
もちろん、スイちゃんは転入生より年上であり、友達にもなった記憶がないので、『翠』と言うのも止めて、ちゃんと『葉山先輩』って、呼ぶように言ったんだけど…。
「さっき、ちゃんと友達になっただろ!!そんないじわるしていたら翠は友達いなくなるぞ!!そうだ!今日からオレがちゃんと悪いことは悪いって教えてやるからな!!」
なんてことを言われてしまい…。
その後、スイちゃんは耐えに耐えて、理事長室+寮まで案内し続けたそうだ。
しかし、スイちゃんの名前呼びは止めてもらえず、ましてや転入生君にも気に入られ………それを正常な状態に戻そうと頑張ったのだが、転入生君の訳のわからない理屈でそれも敗退。
軌道修正を図りたくても、解決法が見つからず更に疲れるハメになったそうだ。
補足…スイちゃんが来た段階で、スイちゃんは素早くカトーさんに目線で合図しカトーさんは、無事脱出に成功!転入生君から逃れることができたそうです。
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