男前なんかじゃない!!2
087.ビンタ。
ビッターーーン!!
ぼくの行動に今まで走っていた1年生3名の足が止まる。そして、この場を見ていた全生徒が息をのむ。
ぼくが仲谷くんにしたのは、所詮ビンタというものだ。しかも、おもいっきりしたから、みるみる仲谷くんの頬は赤くなる。
「なっ!何するんだよ!!」
「うるさい、黙れ!!ぼく達は体育祭の組のトップだ!そのトップに立つ君が選手を貶し、自組の士気を落とすことの意味をちゃんと考えろ!!」
「そ、そんなの、みんながちゃんとやらないから!!」
ぼくの怒声に驚きつつも、当然というか必然で仲谷くんが食って掛かる。
「仲谷くん、君だったら怒られたり貶されたりしても、本来の力は出せるの?」
「………だって…」
「『だって』じゃない!今の赤組を見てみろ!」
ぼくの言葉に仲谷くんは、赤組の集まるシートを見る。
そこに映し出されているのは、さすがにぼくの行動にびっくりしている生徒達だが、とても数分前まで赤組を応援していたとは思えない光景。
手にはケータイを持っている生徒…シートの上に広がるお菓子の数々。そして、いまだこの状況に気付かず寝ている生徒までいる。
赤組以外のぼくの青組とカイリくんの黄組は、最終種目ということもあり、皆声援をおくる体制を取っている。
………これを見ても、仲谷くんは何も感じないの!?
仲谷くんを見れば、自組、赤組のシートを見て唇を噛み締める。漸く、周りが見え始めたようだ。
「自分がされたら嫌だと思うことあるでしょ?それをしないようにするのは難しいけど、言葉や行動をする前に考える…」
それはできる?
続く言葉を飲み込んで、ぼくより数段低い仲谷くんの顔を伺えば…考えているよりも、どこか戸惑いのほうが強く感じる。
「そんなこと、誰もおれに言わなかった…」
それは、仲谷くんが人の話を聞かないからなんだけど…。
わずかにぼくの口元が引きつるけど…黙ってその言葉を聞く。
沈黙が下りる中、この事態にストップをかけるのは、マイクを手にした風紀委員長である真弓先輩。
「今の競技は一時治療のため中断する。開始は30分後、各団長はそれぞれの陣地にもどり作戦会議でもしてろ!それと、ソウは風紀の目の前での暴力行為を行った罰に、反省文3枚を明日までに提出!以上、解散!!」
マイク越しの真弓先輩の声だけど………反省文3枚。
よくよく考えて見れば、こんな目立つ場所でのビンタ(暴力行為)が許されるはずもなく…。
「う゛ぅぅぅ………。勢いでやっとはいえ、反省文3枚って何書けばいいのぉ〜〜〜!?」
ぼくの情けない声を聞いてカイリくんが苦笑いし、仲谷くんは………泣き笑いの表情をしていた。
青組のシートに戻る際、赤組の1年生、さっき仲谷くんに罵倒を浴びせられていた生徒は頭を下げにきた。
これは別に謝罪に来た訳じゃなくて、さっきのぼくの言葉にお礼が言いたかったみたい。
でも、怪我の治療はまだされてなくて、さすがにスイちゃんが救護テントに早く行くように声を掛けたけど、何度も頭を下げている風景にどこかほっとする雰囲気になる。
怪我はどうやら軽そうだし、みんな大丈夫そうかな?
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