Present
相互記念/文
[吉法師と政秀]
全部アナタのせい!
朝起きたら、何かがいつもと違った。
一体なんだろう?
「…んー…?」
首を傾ける。
茶色い前髪が、目にかかって鬱陶しい。
それを指でちょいちょい払いながら、辺りを見渡してみる。
「???」
けっこう蒸し暑い、葉月の朝。
吉法師は掛け布団をがふっと蹴り上げて、バタバタ足を鳴らして障子を開いた。
まずは庭。
それはもう糞暑そうな真夏の太陽に照らされて、小さな池の水面がキラキラしている。
そして廊下を右から左、左から右。
直射日光は無いにしても、やっぱり暑そう。
「…うーん…?」
やっぱり違和感。
一体全体何だろう?
何がいつもと違うのか。
人生六回目の糞暑い夏の日の朝ではないか。
否、朝と言うにはあまりに遅い起床ではあるのだが。
「?」
もう一度首をくいっと傾げ、吉法師は寝間着のまま廊下に足を踏み出していた。
軒下から空を見上げ、直ぐに後悔して引っ込めた。
それだけで汗が噴き出してきそうになったのだ。
暑い。
暑い。
ものっすごく暑い。
あぁ、苛々する。
暑いのもそうだが、何が自分の脳みそに引っかかっているのかわからない。
あぁ、腹が立つ。
苛々する。
暑い。
苛々するー…!
「っ…じぃぃぃぃぃぃいいい!!!」
誰かにアタらなければ。
アタり散らさなければ。
理不尽な怒りを目一杯の剛速球でぶつけなければ。
何せ、とにもかくにも苛々するのだ。
吉法師はその死球のターゲットを迷うことなく傅役平手政秀に定め、その男の部屋へ向かった。
“向かった”と言うが、直ぐそこ。
廊下を突き当たりまで行って、曲がって二つ目の襖を開けばそこで書でも開いている筈。
死球を投げたところで避けられるか、もしくは乱闘、更に悪ければ危険球退場とばかりに外に放り出されるかもしれないと分かってはいたが、寝起きの吉法師が一番に思い浮かべたのがその厄介な傅役なのだから仕方が無い。
「てめぇのせいであぢぃんだよっ!!」
まさしく理不尽。
とんでもないことを叫びながらブッ壊す勢いで襖を開くとー……。
「…れ…?」
きょとん…とせざるを得ない。
なんだ、恐怖の傅役はいないではないか。
床の間を見ると太刀も脇差もない。
どうやら、吉法師に黙って出掛けてしまったようだ。
「…けっ…」
“なんだよ…”と不機嫌そうに唇を尖らせて。
「おれさまにだまってどっかに行きやがったのかよ」
つまらない。
「ふーんだ」
“じぃなんて知らねっ”
…そう言いつつ、部屋には帰らない。
政秀の部屋に入って、ごろーんと転がる。
ころころ転がる。
ころころころころ…。
「…だめだ、あぢぃ」
寝間着は既に汗だく。
着替えようか、いや、部屋に帰るのが暑い。
暑い。
暑い。
あぁ、暑すぎる。
…そうだ、全部全部。
「あいつがいねぇからだ…」
理不尽だなんて、気付いている。
気付いているからあえて政秀にアタり散らしたいのだ。
寝起き一番に偶然思い浮かんだのが政秀だったから?
そう、その通り。
ただし“偶然”というところは少し違う。
“必然”なのだ。
だっていつも隣にいるのはあの男だから。
暑くってもなんでも、いっつもいっつもいるから。
「もー…ばかー…」
“早くかえってこーい”とぼやき、また転がる。
ころころころころころころころころ……がつんっ!!
「いてっ!!」
「…全く…何をしてらっしゃるのですか、人の部屋で」
「うげっ」
廊下の方まで転がった時、堅いものにぶつかった。
見上げるとー…噂をすればなんとやら。
呆れ返った目をこちらに向けている傅役平手政秀。
「まるで化け物を見たような声を出さないで頂きたいものです」
目同様すっかり呆れ返った声でそんなことを言いながら吉法師の頭の上を抜けて部屋に入ってきた政秀は、腰に佩いていた太刀と脇差を抜き、床の間に置いた。
どうやら用事は済んだようだ。
そして戸棚から書を一冊取り出し、所定の位置に腰掛ける。
吉法師は跳ね起きて、そんな政秀をじっと見た。
来た来た。
やっと理不尽にアタることができるぞっ。
「じぃ!てめぇなぁ!」
にっこり笑いながら。
「てめぇのせいであぢぃんだぞっ!!!」
ほら、これで、いつも通り。
違和感の正体は、アナタがいなかったから。
…なんて、結局きっと、僕は気付かない。
end
********
結局のところ、吉法師は政秀がいないと本調子にはなれないんですよね。
口うるさくっても暑苦しくっても、結局はそこにいてほしい。
そういう存在なんだと思います。
何せ、うちの若君は底抜けてツンデレ(笑
民燿様、いかがだったでしょうか?
吉法師か信長か迷ったのですが、とりあえずじぃ絡みというわけで吉法師にさせて頂きました。
満足して頂ければ嬉しいです。
ほんと、相互ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします♪
※民燿様のみお持ち帰り可
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