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永い闇を超えて
モラトリアム

「…お兄ちゃん、だぁれ?」


僕は今、割と難しい問題に直面している。
いつも通り時をとめて
いつも通りちょっとしたいたずらをして
いつも通り、本当にいつも通り過ごしていた。

誰?って言われても、僕だって君が誰だか知らないんだけど。
何歳くらいかなぁこの女の子。
いや別に変な意味とかではなくて!!

何も知らないんだろうなぁ。
この世界中で起こってる様々な事を知らないから、そんなきらきらした表情ができるんだ。

「お兄ちゃん、おくち聞けないの?」

…今軽く喧嘩売られた気がしたんだけど。
気のせいだよね、そう信じておこう。
僕だって心広いし。うん。

「お兄ちゃんはおくちが聞けないんじゃなくて、考え事してたんだよ。君は誰?」

「わたし椎菜!」

「椎菜ちゃんか、ママはどこ?」

「そういえば、ママどこ行ったんだろう…」

うわ、まじかよ。迷子確定じゃんこの子。
とりあえず交番連れて行けばいいかな。

「そんなことよりも!椎菜、お兄ちゃんと初めて会った気がしないの!」

最初に見た笑顔よりも更に大きな笑顔を振りまいて、小さな女の子は言った。
何これ、僕逆ナンされてるの?こんな小さい子に?
やばいマジでウケる。

「そっかぁ、でもお兄ちゃんは君のこと知らないな…」

ん…?
なんか、既視感。
前にもこんなことがあった気がする。
でも何故だろう思い出せない。
すごく大切な記憶だったはずなのに、思い出そうとすると頭の奥がチリチリと痛み出す。

「お兄ちゃん?どうしたの?お熱あるの?」

「…ごめんね、椎菜ちゃん。きっと僕は君を知っているんだろうけど、何も思い出せないんだ」

「すぐに思い出すよ!だって約束だもん」

…え?
約束ってどういうこと?

「ねぇ、どうして」

「お兄ちゃんはね、まほうつかいだからわたしが『覚えてて』って言ったら覚えててくれるの。夢のなかのお姉さんが言ってたもん!」



*****


「ニノマエくん、今だけお別れね」

「今だけ?今だけってどのくらい?」

「きっと理解できる日が来るはず。わたしはどんな姿になっていても絶対ニノマエくんを見つける。だから」

「僕は離れたくないよ」

「…必ず、」



*****



走馬灯のようなものが脳味噌をよぎった。
何だ?こんな記憶、僕は知らない。
でも、どうしてだろう。
見ず知らずの、しかもこんな小さな女の子相手なのに
何故かとても愛おしく感じる。

溢れ出そうになった涙を必死で堪えていた。
目の前の小さな女の子は僕を心配そうな目で見ている。

あ、やめて。そんな悲しい顔をしないで。
君は笑ってる顔が一番きらきらしてるんだから。

「椎菜ー!こら!どこ行ってたの!」

「ママ!」

「じゃあね!お兄ちゃん!約束だよ」

涙が、止まらなかった。

あるはずの無い記憶から無数の声が再生される。

『好きだよ』
『ずっと一緒にいようね』
『離れたくないね』
『約束だよ』

『必ず、また会えるよね』

約束、したもんね。
僕は君を待ってるから、早く追いついてね。
また一緒にいよう。
愛し合おう。抱きしめ合おう。

今度こそ離れないように。


あきゅろす。
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