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Is it free to pray even if it doesn't come true?
はじめまして。

『バッティングセンター?』

「そう!みんなで行きましょうよ〜」

あさ子ちゃんの狙いは分かってる。
彼女は吉田くんの…おじさん?に会いたいんだろう。
私は会ったことがないのでよく知らないけど、毎日のように聞かされている。
"みっちゃんさんは、強くてかっこよくて優しくて大人の余裕があって………
しかもグラサンがよく似合う!!!!!"
ーーーとか言っていた。最後のはよく分からないけど。
そこまで言われるような人なら少し見てみたい気もするが、なにせ私はあまり人と話したくない。
水谷さんとは必要最低限しか話してなかったし、あさ子ちゃんとだって話しかけてくれなければきっと話さなかっただろう。
まぁ…吉田くんは元々あんなだし……。

「智尋ちゃん?…やっぱり行きたくないですか…?」

『…水谷さんは行くの?』

「もうすぐ小テストがあるって言っていたし、行きたくはないんだけど」

「!?みみみみミッティ!!?行きましょうよ!!!」

あ、もうすぐ小テストなんだっけ。
だったらわたしも勉強したいなぁ。

『もうすぐテストなら私は「まぁ向こうでも勉強はできるかしら」

『え』

「で!す!よ!ね!さすがミッティ〜〜〜!!向こうで勉強すればいいですよね!!ほら!智尋ちゃんも!!」

まさかこうなろうとは。
さすが水谷さんだ、切り替えが早い。

『じゃ、じゃあ私も勉強しに行くだけ、ね?』

「やったあああああああ!!!さっそく!行きましょう!!!!!」

『何言ってるの、学校があるでしょ。てゆーかお昼もまだだし』

なんて言いながら今日の予定があっという間に変わってしまった。
今までの自分だったらこんなことはありえない。
吉田くんはいつも「シズクはすごい。人を変える」なんて言ってて、私はいつも"そんな簡単に人が変わるわけない"って思ってたけど少なくとも私は単純だったらしい。
こんな簡単に今までの生活を変えてしまったんだから。
そんなこんなで私達はバッティングセンターに来た。
半ば強制的に連れて来られた訳だけど……。
何よりもみっちゃんさん、いかつい。

「お、なんだ智尋もいるのか!!そういえばお前はココ初めてか?」

『う、うん』

実はまだ吉田くんは少し苦手だ。
なんていうか……ノリが。
勢いというか雰囲気というか…でもきっと色んな事を考えているんだろうなってとこが、私が言うのも何だけど少し取っ付きづらい。

「どうした?考えこんで。まぁいい!お前も打ってけ!」

『え、いや私は水谷さんと勉強しに来ただけだから……』

「そうよ、ハル。もう少しでテストなんだから」

「また勉強かよ〜。遊ぼうぜ〜。せっかくヤマケンたちもいるしよ〜」

『やまけん?』

聞いたことの無い名前だ。
この人達にはまだ知り合いがいるのか。
なんて世界の広い人達だろう。って違うか。
不思議そうにしていたら水谷さんが説明してくれた。

「ヤマケンくんはハルのお友達よ。まぁ私が最初に見た時ハルはヤマケンくん達にカツアゲされてたわけだけど……。ハルが友達って言うんだからきっとそうなんでしょうね」

『カツアゲ!?えっそれ犯罪じゃ』

「そうなんだけどまぁヤマケンくん達海明学院だし常識がないわけじゃ…ないと思うのよね。ねぇ夏目さん?」

急に話をふられて驚いていたあさ子ちゃんだったが、それよりも分かりやすく嫌な顔をした。
あさ子ちゃんはどう思ってるのかな?
嫌な顔をしたあさ子ちゃんが気になっていたけど、あさ子ちゃんが口を開こうとしたので黙っていようと思っていた時だった。

「うおっ!夏目さんだ!」

「おーっ!俺と付き合って!」

「いや!俺だよ!な、ジョージ!!」

「……さぁ」

……もしかしてあさ子ちゃんが嫌そうな顔をした原因ってこれ?とゆーかこれ以外考えられないけど。
男嫌いのあさ子ちゃんにこれはナイな……。

「おい」

ふと考え事をしていると声をかけられた。
小さいチンピラとでっかいチンピラと
グラサンの無言な人とは見るからに雰囲気が違う。
見るからに……傍若無人そう。

「ねぇ、これも水谷サンの友達?」

ん?"これ"?
今人のこと指さして"これ"って言った!?

「ヤマケンくん、私の友達をそんな風に言うのやめてくれない?」

まさか。
まさかまさかとは思っていたがまさか。
吉田くんの友達で…海明学院で…
あの水谷さんが言い淀むとは言え、「常識がある」と言っていたのに。
まだ見ぬ"ヤマケン"に多大なる期待をしていた私は
高い崖から落とされた気分だった。
見ず知らずの人に「これ」と言われたことは
私を裏切るにあまりにも十分な出来事だったのだ。
…勝手に裏切られただけだろって言われたら、それまでなんだけど。

「ねぇ、あんた名前は」

『ごめん水谷さん。私帰って勉強するね』

「あ、智尋さん」

呼び止めてくれた水谷さんを無視してしまった。
これは私がいけない。
…でも時間は有意義に過ごしたい。
それに私はまだ、水谷さんや吉田くん
あさ子ちゃんやササヤンくん以外と喋れるとも思えない。

「あれっ?どうして智尋ちゃん帰り支度してるんですか?」

『…ごめんね、あさ子ちゃん』

私は鞄を持って外に出る。
ここってどこだっけ。どっちから来たっけ。
このバッティングセンターまでは水谷さん達と来たから、よく道が分からない。
しかも私は方向音痴だし。…あぁもう。

どうして私はこういう性格なんだろう。
言いたいことを言えないくせに自己主張だけはしたがる。
みんなに気を使わせて、私最悪だ。
世界で独りぼっちな気がする。

「何で帰んの?」

ふいに声をかけられて振り向くと、さっきの傍若無人な海明の人がいた。
え?なんで?は?
どうしてここにいて、どうして私に話しかけるの?

「何でここにいんのって顔してる。あんた喋れないの?」

いきなり話しかけてきて、いきなり失礼だなこの人…!

「失礼な奴だって顔だな。いいから名前教えろ」

『…智尋、だけど』

「何だよ喋れんじゃねーか。智尋サンね、覚えとくわ。てか何で名前?苗字でもよくないか」

『名前を教えろって言ったのはあなたじゃない!』

「あぁはいはい、変なとこ律儀な」

いや違う。そうじゃない。
そもそも覚えてもらわなくてもいいんだけど!
とりあえずこの人、人の話聞かないタイプだ。
何を言っても無駄な気がする。
帰ろう。帰って落ち着いたらあさ子ちゃんや水谷さんに"ごめんね"って連絡しよう。
それから勉強して、それから……。

「それで、あんた何で帰んの?マーボ達が見るからに残念がってて、それはそれはうざいから戻ってきてもらいたいんだけど」

『ぜっっったいに嫌!!!私は帰るって決めたの!さよなら!!!!!!』

一度決めたらなかなか覆さない。
私はそういう性格だ。頑固とも言う。
そのまま振り向き歩き出そうとした、が。
ここで忘れていた難点にまた直面した。
そういえばここがどこだか分からなかったんだった…!
また振り向く。
なんだかもう興味が無くなったみたいにスマホをいじっていた彼に声をかける。

「…何?帰るんじゃないの?」

『ここ、どこ?どっちに行ったら駅なの?』

「は??」

よく少女漫画で「出会いは最悪」なんて
決まり文句があるけど、本当に最悪だった。
これが私と山口賢二という傍若無人な人との出会い。

出会いは、最悪だった。



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