. 手 それだけ言うと、会長は出て行ってしまった。 部屋を出る前に、会長は私の頭を一撫でした。 私は、自分が男性恐怖症なんかになっていないか心配だった。だが会長に撫でられた時、嫌な感じはしなかったし、寧ろ温かくて、安心できた。 一人残された私は、会長に少しだけ元気を貰って、また作業に戻った。 ―― 教室に行くのが怖い。 生徒会室から出て教室へ近付くに連れ、その感情は強くなっていった。 そして、私の思いとは裏腹に、当たり前といえば当たり前に、教室へ到着してしまう。 (着いちゃった…) 扉を開ける。何も見ないように、早く、自分の席に着こう。ギリギリまで生徒会室にいたから、すぐに先生が来て、SHRを始めてくれるはず―― 「おはよう。苗字さん」 あの低い声が、私の耳に届いた。 「…あ……」 一気に背筋が凍った。でも、これは、返事をしなければいけない気がする… 「…お、はよ…」 なんとか返せた。私は下を向いたまま、彼の靴だけを見つめていた。 (早く、どっかいってよ…) その時、見つめていた靴が動いた。良かったと思ったら、こっちに近付いてくる。そして耳元― 「ちゃんと人の目ェ見んとあかんで」 私は弾かれたように顔を上げた。その人と目が合う。というか、合わせた。 「お、おはよう…!」 「フッ…やれば出来るやないか。全部それで頼むわ」 これから、どんなに嫌でも、この人の目を見なければいけなくなった。 彼が私の横を通り過ぎる時、私の頭に手を置いた。 嫌だった。触らないで欲しい。 会長が、せっかく撫でてくれた頭だったのに…… [*前へ][次へ#] [戻る] |