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木漏れ日と風と
始業のチャイムを聞いたのは、随分前のこと。
今は青い空を見上げている――
最初ジロー君は、昨日のことや、もっと早くここへ来てたなら止めて上げられたのにって、ずっと自分を責めていた。私も心が痛んだ。
そんなのは君のせいなんかじゃないから、
仕方がないことだから、
と、私は言い続けた。
言ってるうちに、なぜこんなにも私が、まして昨日まで普通に暮らしてきたこの人までが、こんなに苦しまなければならないのだと、すごく腹が立った。悲しかった。
それから大分落ち着いた私とジロー君は、ここにいちゃダメだ、というジロー君の一言で移動することにした。
場所はジロー君のお気に入りだというお昼寝スポット。
校舎から少し離れた木陰。
明るくて涼しくて、私もそこが気に入った。
そこで私達はお互いに自己紹介をしたり、たわいのない話をした。
彼がジロー君という名前ということも、ここで知った。
C組ということ、家がクリーニング屋で3人兄妹ということ、眠るのが大好きということ、テニス部ということ、神奈川の学校に好きな選手がいること……
ジロー君のことを沢山知れた。私も自分のことを沢山教えた。
こんなにお喋りしたのは、久しぶりだと思う。
その時だけは普通の高校生に戻って、今出来た友達と楽しい時間を過ごした。
でも、どれくらい話していただろう。
楽しい時間はすぐ過ぎて現実に引き戻される。
何度目かのチャイムを聞いた時、思い出してしまった。
自分が今日やらなくてはいけないこと―――
「あ、の…ジロー君………」
「ん?なにぃ?」
「……忍足侑士の家の場所、わか、る?」
それまで笑顔だったジロー君の顔が、一変して厳しいものとなった。
「……なんで?」
「私…どうしても、行かなくちゃいけなくて…」
あの目は本気だった。行かなかったら、もっとひどいことになりそうで怖い。怖いけど、逃げ出したいけど、これは命令なんだ、だから……
「…ヤダ。教えないC」
「っ…ぉ、お願いっ…ジロー君…」
「だって!名前が傷付くって分かりきってるのに、行かせらんないよ!」
「っ…」
今、ジワッときてしまった。
私のことを思ってくれている言葉。
また涙が滲み出る。
でもそれは流さないようにぐっと止めて、笑顔を作る。
ごめんねジロー君。
逆に勇気が出ちゃったよ。
あいつの家に行って、「今日でやめて」と言う勇気が。
怖いけど、怖がってばかりは、ダメだ。戦わなきゃ。
「…ありがとう。でも私は大丈夫。だから、教えて?」
ジロー君の目をじっと見つめる。
私の意思は揺るがなかった。
ずっと困った顔をしていたジロー君は、何かあったらすぐに連絡するという条件で、住所を教えてくれた。
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