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テニス短編
仁王先輩へプレゼントを -sideヒロイン-
「お!何!ついに告白すんの!?」

「し、しないよ!というか赤也君声大きい…!」

部活が終わって、今は部室に赤也君と2人きり。赤也君はいつも声が大きいから、相談事をするならこういう密室で2人きりの時に限る。

相談事というのは、いつも大抵仁王先輩のこと。なぜか赤也君には私が前から仁王先輩が好きだってことがバレていて、時折相談に乗ってもらっていた。

そして今は、今度の仁王先輩へのサプライズの誕生日パーティーについて話し合っていた。3年生はもう引退してしまって、仁王先輩ともしばらく会っていない。今度の仁王先輩の誕生日、この部室に久しぶりに旧レギュラーのみんなで集まって、みんなで仁王先輩をお祝いしようということで準備をしている。久しぶりに先輩の皆さんに会えることや、仁王先輩に会えることがほんとに楽しみで、そしてこの日がなんだか最後のチャンスのような気がしていた。

「デ、デートに誘うだけ…告白はその時するから…」

「ほんとかよー?お前、引退式の時も告白するって言って結局しなかったじゃねぇかよ」

「あ、あの時はほんとに後悔したのっ!あれから会う機会も減っちゃったし…今度こそは言うから!」

そう、3年生の引退式の日、私は仁王先輩に告白しようと決めていたのに、結局言えなかった。引退式が終わって、部室の外で泣きじゃくって、赤也君に慰められたのを覚えている。

「ふーん、苗字もついに本気出すんだね」

「「ゆ、幸村先輩!?」」

い、いつの間に…!幸村先輩はしれっと私達と一緒のテーブルに着いていた。

「委員会で遅くなってね。部室を通り掛ったらまだ灯りが点いていたから」

「ゆ、幸村先輩も知ってたんですか…?」

「何が?苗字が仁王のこと好きだって?そんなのみんな知ってるでしょ」

「ええええ!!なんで!!赤也君っ!?」

赤也君がみんなにバラしたのか!そんな、ひどい…!

「お、俺は誰にも言ってねぇってホント!!」

「赤也は言ってないと思うよ。苗字って分かりやすいから。見てたら分かるよ」

そ、そうなんだ…赤也君疑ってごめんね。とういうか私ってそんなに分かりやすいのか…ということはもしかして仁王先輩にもバレてる…?いや、そんなことはないはず!

「まぁ、でも、皆さんにもうバレているんなら、この際協力していただきたいです…!」

「いいよ、何すればいいの?」

「あの、私、いつも逃げ出しちゃうんですけど、でも皆さんの前だとちゃんと言えるかなと思って!皆さんには私が逃げ出さないようにプレッシャーを掛けてほしいんです!」

「なるほど、分かった。プレッシャーを掛けるのは大得意だから」

幸村先輩がニコッと優しい笑顔で言ってくれた。嬉しい。

「ありがとうございますぅ!」

「苗字…お前五感奪われるぞ…」

「何か言った?赤也」

「い、いえ!なんにもっ!」

よし、今度こそ、絶対に告白する!その前に今度の誕生日パーティーでちゃんとデートに誘わなければ…!






12/4。部室に集まる懐かしい顔ぶれ。今日は待ちに待った仁王先輩の誕生日。みんなで仁王先輩を迎える準備をする。

「わー!丸井先輩っすごいです!美味しそう〜!」

「だろぃ?」

丸井先輩の作ったホールケーキ、みんなで飾り付けた部室、手に持ったクラッカー、準備は万端。後は赤也君が仁王先輩を呼んできてくれるのを待つだけ。

「呼んできましたー!!」

赤也君が部室に走り込んできて、赤也君もクラッカーを用意する。しばらくすると部室のドアが開いて、仁王先輩が入ってきた。



「ハッピーバースデー!!!」



仁王先輩に向かって一斉にクラッカーを放つ。

「な、なんじゃ、みんなして」

いつも飄々としている仁王先輩だけど、ちょっと驚いてくれたみたい。やった、大成功!

それからは丸井先輩の作ったケーキをみんなで食べたり、柳生先輩が仁王先輩に作ってきたポエムをみんなで聞いたり、久しぶりにみんなで過ごす時間はすごく楽しかった。

私は1年の頃からテニス部のマネージャーをやっていて、1コ上のこの先輩達とはほぼ2年も一緒にいる。楽しくて、大好きな先輩達。そして、違う意味で、大好きな仁王先輩。みんなに囲まれて笑っている仁王先輩を見ていると、温かい気持ちを感じると同時に胸がきゅうっとする。やっぱり、仁王先輩が好き…。



みんながそれぞれ仁王先輩にプレゼントを渡している。そして、まだ渡していないのは私だけとなった。

「ほら、行けって」

「え、ちょっと、まだ心の準備が…!」

「苗字?」

「はい、行きます…」

やっぱり言う勇気がなくて、赤也君とわちゃわちゃしていたら、幸村先輩にすっごく黒い笑顔で名前を呼ばれた。これはもう行くしかない、幸村先輩にお願いしておいて良かった…いや、ほんとに怖かったんだけど…!


「に、仁王先輩!」

「なんじゃ、苗字」

「あ、あの…えっと…」

うわぁ…久しぶりに仁王先輩と喋る…嬉しい…やっぱりかっこいい……そして緊張する………でも、もう、言わなきゃ!

「あのっ、私、いつもお世話になっている仁王先輩に何かプレゼントがしたくて、それで、柳生先輩に仁王先輩が何を欲しがっているか聞いたら、ネジとドライバーだと聞いて、あの、ホームセンターまで買いに行ったんですけど…種類が多くてどんなのがいいのか私には分からなくて…あ、もしいらないのをプレゼントしてしまったら困らせてしまうし……だ、だから、今度、仁王先輩のお誕生日プレゼントを買いに…その、一緒にお出掛けしてほしいんです!!」

い、言えた…!周りから拍手が巻き起こる。皆さん、幸村先輩、赤也君、ありがとう!!

「それは、デートのお誘いかの?」

「へっ!え、えっと、その…そ、そうです……」

「分かった」

「え!!いいんですか!!」

嬉しい…!OKしてもらえた…!仁王先輩とデートができるなんて夢みたいだ…!

「じゃが、プレゼントは今貰ってもいいかの」

あれ、仁王先輩話聞いてなかったのかな…私の話がしどろもどろ過ぎてよく分かっていただけなかったのかな…そのデートが、仁王先輩のプレゼントを買いに行くデートなんだけど…。

「あ、あの、そのプレゼントを買いに、今度ーーー」

「俺は苗字が欲しいんじゃけど」

「…へっ?」

フッと微笑む仁王先輩。私が欲しい…って、ど、どういう意味……

「あ、あの仁王せんぱっ…きゃぁ!」

仁王先輩が私の肩に手を触れたかと思ったら、視界が揺れて、身体が宙に浮く。私は仁王先輩にお姫様抱っこをされていた。びっくりした弾みで私は無意識に仁王先輩の首に腕を回していて、顔が近くて、密着していて、もう何がなんだか分からない。

「ということで、このまま帰ってもいいかの。パーティーありがとのう」

「うん、お幸せに」

「返品は不可っすからねー!!」

幸村先輩…!赤也君、人を物みたいに…!そして私と仁王先輩に手を振る先輩達。仁王先輩にお姫様抱っこをされながら、この急展開についていけずに、心臓がこれでもかってくらいドキドキしていた。





「先輩っ、そろそろ降ろしてほしいんですけどぉ…」

部室を出て、このままほんとに帰りそうだったので、仁王先輩にそうお願いをする。仁王先輩にお姫様抱っこされているこの状態はとっても嬉しいんだけど、そろそろ心臓が爆発しそうだ。

そして仁王先輩は私を降ろしてくれた。そしてそのまま向かいあって、見つめ合う。仁王先輩は少しムスッとした顔をした。

「苗字は、俺が嫌いか?」

「え!!そんな、嫌いなんて、あり得ないです!!むしろ…!」

言い掛けて、ハッとする。

「むしろ?」

ニヤッと笑う仁王先輩。さっきの怒った顔は嘘だったのか。
綺麗な透き通るような瞳。もう…そんなに見つめられたら…気持ちが溢れてしまう…。


「仁王先輩っ…大好きです!ずっと前から大好きでした!!」


やっと、ずっと言いたかったことが言えた。大好き、仁王先輩が、大好き……。

「遅いんじゃ、ばか…」

仁王先輩にぎゅうっと抱きしめられる。私は嬉しくて、仁王先輩が大好きすぎて、泣きながら仁王先輩にしがみ付いた。






仁王先輩、お誕生日おめでとうございます。

仁王先輩、生まれてきてくれて、ありがとうございます。

私に出逢ってくれて、ありがとうございます。

仁王先輩、今日は貴方に素敵なプレゼントを渡したかったのですが、私の方が最高のプレゼントをいただいてしまったみたいです。

仁王先輩、大好き。

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