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テニス短編
ばんぎゃる2(続き)
「おはようさん」

朝、自分の席に座っていたら、朝練が終わった忍足君が私の机の前まで来て挨拶をしてくれた。こんなこと今までなかったことで、本当に付き合うことになったんだなぁと、少し顔を赤くする。

「お、おはよう」

そして昨日はライブが終わって家に帰ってきた後、忍足君から電話が掛かってきてライブの感想を聞かれたので、熱く語り過ぎてしまった。電話を切った後、これはしまった、今度こそ引かれたかもしれないと、熱く語り過ぎてしまったことを猛反省。もしかして嫌われてしまっていたらどうしようと不安に思っていたのだけど、忍足君は普通に挨拶してくれたので安心した。

「なんや、今日はツインテールやないん?」

「お、忍足君っ…!?」

安心したのも束の間、びっくりしすぎて机からずり落ちるかと思った。昨日、学校では秘密にしてくれると言っていたのに、いきなり言うなんて。幸い、教室内はガヤガヤしていて、今の会話を聞いた人はいなかったと思うけど。

焦る私の様子を見て、目の前にいる忍足君は絶対に楽しんでいる。

「侑士ー!数学の教科書貸してー!1限からなのに忘れちまって!!」

教室のドアから入ってきたのは別のクラスの向日君。向日君は忍足君に用があるのかちょいちょいこのクラスに来ているので、自分のクラスのように普通に入ってくる。向日君とは去年同じクラスで、あんまり話したことはなかったけど、クラスが変わっても会ったら挨拶してくれて、とてもいい人だ。

「あれ、侑士と苗字が話してるなんて珍しくね?なんかあった?」

「おん。昨日から付き合うとるからな」

はぁああ!?という向日君の声と、今度は聞き逃してもらえなかったのか、一斉にこちらを振り向くクラスメイト。終わった…。私の地味子生活は完全に終わってしまった。

「あれ、もしかしてこれも秘密やった?すまんなぁ、言うてもうたわ」

わざとだ…!絶対わざと…!女子達の悲鳴や、他のクラスへこのビッグニュースを知らせに走るクラスメイト達を横目に、私は頭を抱えた。





「まぁ、もうバレてしもたんやで、今日は一緒に帰ろうや」

忍足君にそう言われ、いやいや貴方が自分からバラしたんでしょうと思いつつ、私は素直に放課後、忍足君の部活が終わるのを待っている。だって、やっぱりずっと好きだった人なわけで、一緒に帰ることを何度夢に見たのかもしれないのだから。

うわぁ…どうしよう、今更すごく緊張してきた。私は時間を潰していた図書室から、待ち合わせ場所の学校の噴水へ移動して腰掛けた。部活が終わる時間が段々と近付く。何もせずに待っていると心臓が張り裂けそうで、気を紛らせるためにウォークマンを取り出した。あの大好きなラブバラードでも聴こう。あの優しいメロディに、きっと心も落ち着くはず。

そうしてイヤホンを耳に入れ、流すのは私の大好きなバンドの大好きなラブバラード。その曲をリピートにしてしばらく音楽に身を任せていると、急に横から抱き締められた。

「おまたせ」

「きゃあ!」

いつの間にかやってきていた忍足君にぎゅうっと左側から抱き締められる。突然の出来事に驚き過ぎて噴水へ落ちるかと思ったけど、そこは忍足君に強く抱き締められていたので大丈夫だった。だけど私の心臓は大丈夫ではない。ドキドキし過ぎて死にそうである。

「自分隙あり過ぎやで?外で音楽聴くの禁止な」

「そ、そんなぁ…!」

確かに音楽に集中し過ぎて忍足君が来ていたことにも気付かなかったのは注意散漫だと思う。だからってこんな外で抱き締めなくても…!!

「何聴いてるん?」

私を抱き締める腕を解いた忍足君は、私の左耳のイヤホンを取って自分の左耳へ付けた。私は右耳で、忍足君は左耳でイヤホンを付けている形になるので、自ずと顔の距離が近付く。身体もぴったりと横付けされて、本当にドキドキし過ぎて死にそうになりながら、忍足君と一緒に流れてくるラブバラードを聴いた。




「めっちゃいい曲やん。歌詞が恋愛小説みたいでめっちゃ好みやわぁ」

聴き終わった忍足君がイヤホンを外しながら言う。私もイヤホンを外す。

「でしょ!メロディもいいけど、歌詞がほんとに好きなの!」

私が好きな曲を忍足君も好きだと言ってくれて、テンションが上がる。すごく嬉しい。その勢いのまままた熱く語ってしまいそうだったけど、そこは昨日の反省も踏まえグッと堪えた。そして私は鞄の中から袋を取り出す。

「これ、一応ベストアルバムと、新曲のシングル。ベストアルバムに、この曲も入ってるよ」

ほんとはシングルもアルバムも全部いい曲だから全部貸したいくらいなのだが、そうなるとさすがに気持ち的にも物理的にも重いので、とりあえず無難にベストアルバムと新曲のシングルをセレクトした。私は袋からCDを出して、ベストアルバムを裏返して今聴いた曲のタイトルと何曲目に入っているかを忍足君に教える。

「苗字さん、おおきに。さっそく今日帰ったら聴いてみるわ」

「うん!」

忍足君は自分の鞄に私の貸したCDを仕舞うと立ち上がった。

「ほな、帰ろか」

立ち上がった忍足君は私に手を差し伸べている。

これは…手を繋ごうって意味なのかな。

「う、うんっ」

多分さっきから私は顔を赤くしてばっかりだと思うけど、また顔が熱くなるのを感じながら、私は忍足君の手を取って立ち上がる。すると忍足君はぎゅうっと私の手を握り直して、歩き出した。



忍足君と帰る帰り道。まだこの繋がれた手には全然慣れないけど、ドキドキと幸せを抱きながら、頭の中ではあのラブバラードが流れていた。

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あきゅろす。
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