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テニス短編
甘栗 *柳
「蓮二くん、蓮二くん、栗いっぱい拾ってきたの!一緒に食べよう!」

私はお隣の蓮二君の家に突撃して、出てきた蓮二君に一緒に栗を食べようと誘った。休日の今日、家族で栗拾いに行ってきて、家族だけじゃ食べ切れないのでいつもお世話になっている柳家にお裾分けに来たのだ。

「そんなに拾ってきたのか、すごいな。これはぜひ頂きたい」

そう言ってくれる蓮二君。蓮二君はいつもそう。昔から、私がやることはどんな些細なことでも褒めてくれる。私はそんな蓮二君が大好きだった。

家に上がらせてもらうと、今日は蓮二君以外の家族はいないみたいで、家族の分は取っておいて今私と蓮二君が食べる分だけ茹でようということになった。

「ほんとは一度天日干しすると糖度が増すんだが」

「そうなんだ、お母さんに教えてあげよう〜!」

蓮二君は昔から物知りで頭が良くて、なんでも教えてくれる。そうか、じゃあ今日すぐ食べるより、天日干ししたほうがおいしいのか…。

「でも今食べたい…」

「フッ、名前が拾ってきたんだからうまいに決まっている」

そう言って頭を撫でてくれる蓮二君。私は嬉しくて顔がにやけてしまった。



ぐつぐつと煮立つお鍋の火に注意しながら、私と蓮二君はキッチンでお喋りをする。皮のまま茹でるので結構時間が掛かったけど、蓮二君と話していたら時間なんてあっという間だった。

そして栗は茹で上がり、少し冷ましてから、やっと食べられることになった。

「いただきまーすっ!…あ、あつっ」

もう冷めたかなと思ったけど、まだ少し熱かった。そして栗専用の小さい皮剥き器を使って皮を剥こうとするのだけど、私が下手くそなのか、上手く剥けない。

「剥いてやろうか?」

悪戦苦闘していた私を見かねてか、蓮二君がそう言って栗をひとつ取ると、皮剥き器を上手く使ってつるんっと皮を剥いて渡してくれた。

「わーいっありがと〜!蓮二君上手!」

私は自分の掌に乗ったその栗を口に頬張る。すると栗独特の甘さと風味が口の中に広がった。

「おいしいー!」

「そうか、良かったな」

そうして蓮二君も自分で剥いた栗をパクリと食べる。

「うまいな」

「ほんと?良かったー!」

蓮二君がうまいと言ってくれて、一生懸命拾ってきた甲斐があったと満足する。


そして蓮二君は結局私の分も全部皮を剥いてくれた。蓮二君は栗の皮剥きでさえもそつなくこなして、かっこいいなぁと思う。そして自分の分だけじゃなく私の分も剥いてくれて、とても優しい。

蓮二君の家のリビングのローテーブルに2人で並んで座って、ゆっくり流れる時間。

蓮二君と一緒に、秋の味覚を堪能した。









**

それから数年後。

「蓮二くん、ただいま〜っ」

私は玄関で出迎えてくれた蓮二君にぎゅうっと抱きつく。

「あぁ、おかえり。寒くなかったか?」

「うん、ちょっと寒かった!」

寒かったけど、今はこうして蓮二君に包まれてとても暖かかい。私はもう1度ぎゅうぅっと抱き締めてから、そっと離れる。

「お土産買ってきたよ!甘栗!」

今日は友達と横浜の中華街に行ってきて、夜が少し遅くなってしまった。お詫びと言ってはなんだけど、甘栗を買ってきたのだ。

「ありがとう。しかし名前、中華街へ行くといつも甘栗を買ってきていないか?」

「だって押し売りされるんだもん」

「だから栗の押し売りには気をつけろと言っているだろう」

「いいの!好きだからっ」

中華街は栗を売っている出店が沢山あって、呼び込みの店員さんも結構強引だから、ついつい買ってしまう甘栗。でも、ほんとに好きだからいいのだ。

「蓮二くん、一緒に食べようっ」

「剥いてくれる?とお前は言う」

私の考えていたことがバレバレで、思わず笑ってしまう。
初めて蓮二君と一緒にあの栗を食べてから、どれくらい秋が来たのだろう。あの日から、毎年毎年、一緒に並んで食べる甘栗。私達の、思い出の甘栗。

「まさかあの日告白されるとは思わなかった」

「あの日は俺一人だったと言うのにのこのこ上がってくる名前が悪い」

「だって一緒に食べたかったんだもん…!」

そうやって話すのは、私達が今2人で住んでいる部屋。今年もこうやって、ローテーブルの前でくっついて甘栗が食べられて、とっても幸せ。

また来年も、再来年も、ずっとずっと、秋になったら甘栗を食べようね。

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