テニス短編
ばんぎゃる *忍足(侑)
髪良し!服良し!メイク良し!
あとは、チケット持った!財布持った!ケータイ持った!
今日はスタンディングなので荷物は最低限に。ドリンク代の500円玉も用意したし、準備バンタン!
私には大好きなロックバンドがいます。
今日は地元のライブハウスに来てくれるということで、すごく嬉しい。
でも、地元ゆえに、誰かに見つかる可能性もあるわけで。
そう。私は学校では地味子で通っているので、多分こんな姿を見られたら何を言われるか。
今の格好は、いつもおろしている髪を高い位置でくくって毛先をくるくるにしたツインテールと、少し濃いめのメイク、上はライブTシャツに下は超ミニのパニエ(見せパン着用)。黒ニーハイにスニーカーというスタイルだ。
家の最寄駅からライブハウスのある駅へ着いた。誰かに見つかる前に早くライブハウスへ行ってしまおう。
そう思いそそくさと駅を抜け会場へ向かおうとした、その時。
「あれ…もしかして、苗字さん?」
心臓が止まるかと思った。
真正面に立っているのは、クラスメイトの忍足くん。
私の好きな人。
「え、えー、えっと、人違いです」
「いや、声まんまやし。びっくりしたわ、何、私服はそんなんやの?」
「いや!今日はライブがあってですね!いつもこうなわけじゃないよ!いつもこうだったら変人だよ!」
「いや、よう似合っとるわ思て。なんや、学校の時より生き生きしとるで?」
最悪だ。よりによって忍足君に見られるなんて、明日から生きていけない…(でも今日はライブなので生きる!)
しかも忍足君は何かニコニコしてて、絶対に面白がっている…。
「あ、あの、忍足くん。学校の子には、言わないでくれる?」
両手を合わせてお願いしてみる。
ふーん、と何か企んでいるような顔をしたのは気のせいでしょうか。
「2人だけの秘密っちゅーこと?」
「うん、そう、お願い!」
「ええよ」
え、や、やったー!意外とあっさり承諾してくれた。言ってみるもんだね。
まぁこんな姿を見られて私の恋は散ったと思うけど、とりあえず学校での私のイメージは守られるわけで。
「あ、ありがとう!それじゃあ私はこれで!」
くるりと背を向けて、逃げようとしたその時。
「ちょお待ちぃや。タダでとは言ってへんで?」
え…前言撤回。やっぱりそんなにあっさり解放はしてくれないのね。
「タダで」って、私、カツアゲでもされてしまうのかな。
「ええっとぉ…私今あんまり持ってないんだけど…」
「なんか言うことひとつ聞いてくれたら黙っといてもええで、ってこと」
ああ、そういうことか。なぁんだ。今日はライブタオルを買いたかったから、お金を取られるわけにはいかなかったの!
「うん!聞く聞く!なんでも聞きます!」
「ほな、苗字さん。俺と付き合おてや」
一瞬忍足君が何を言ったのか分からなかった。
「…う、うん?忍足君これからどこか行くの?ごめんね、私これからライブだから、付き合ってあげられないの…」
「そうやなくて、」
俺と恋人同士になれ、っちゅーこと
そう言われて、ツインテールをくるくると弄ばれた。
私は一気に顔が赤くなる。
「え…ええええ!あ、あの、それが黙っといてくれる条件…なの?」
「そうや。なんや、ギャップ萌えってやつかいな?今日の姿見て惚れてしもたわ。めっちゃ可愛ええ」
可愛いと言われ、益々顔が赤くなった。
嘘だ…信じられない。なにがどうして好きだった忍足君に告白されることになったのか…!
「返事は?」
「え、ええっとぉ………はい、お願い、します…」
そんなこんなで私と忍足君は付き合うことになりました。
その後忍足君はライブハウスまで送ってくれて。
「今度このバンドのCD貸してな。一緒にライブ行きたいわ」
「え!一緒に行かないよ!絶対引かれるもん……!!」
めちゃくちゃ頭とか振っちゃうからね、ライブハウスは戦場だからね!
「なんやーどんな姿でも好きになる自信あるんやけどなぁ」
「…!」
ま、まぁ、ライブは一緒に行かないけど、CDは貸してあげようかな。
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