テニス短編
Gパニック *柳生
「いやあああああっ!」
何事かと申しますと、
一人暮らしの部屋に、
やつが、
Gが出たのです。
「やだやだぁ!」
取るものもとりあえず、部屋の外へ出る。
だって、私じゃ絶対に退治出来ない。
おかしいなぁ…ちゃんと部屋は綺麗にしているのに。
台所や部屋の至る所にG団子だって置いてるのに、それでも半年に1回くらいは遭遇してしまう。
なぜだ…!
「もうやだぁ…ひろしぃ…」
少し混乱状態の私は、最近できた私の彼氏に電話をする。
こんな時彼氏って便利。
今までは虫が大丈夫なお友達にお願いしていたけれど、彼氏の方が気兼ねなく頼れる気がするもんね。
1回目のコールの途中で、比呂士は出てくれた。
『はいもしもし。名前さん?』
「あ、ひろしぃー!助けてぇ!」
『え、どうかなさったんですか!?』
比呂士の声と同時に電話の向こうから、物音や何かが揺れ動く音が聞こえた。
その一瞬で、あぁ、この人は取るものもとりあえず家を出て、こっちに向かってくれてるんだと分かった。
そんな大切にされている温かさにほっこりしつつ、愛しさが募って、我が儘にも「早く来てーっ」なんて思ってしまう。
「出たのぉ」
『何がですか!?大丈夫ですから、そこにいて下さいね!』
「Gが」
『……は?』
「…どーおー?ひろしー」
「いませんね」
「そんなぁ!絶対いるのにぃ〜っ」
あの後ものの5分で来てくれた比呂士は、私の部屋に入って、先程のGを退治するために探してくれていた。
私はその様子を、たまに玄関のドアをそっと開けて確認する。
一緒に探したりしない。だって怖いもんっ。
…あれ、そういえば比呂士が私の部屋に入るのって初めてじゃないか?
なんてロマンのかけらもないシチュエーション。
まぁでも、しょうがないよ、ね。緊急事態だもん。
そんなこんなで結構時間が経ったけど、結局見つからなかったらしい。
比呂士が部屋から出てきた。
「ま、大丈夫です。出ませんよ」
「何を根拠に!絶対いるもぉおんっ…やだなぁ…」
また一人で部屋にいる時に出てきたらどうしよう…寝てる間とかっ……
「さ、お家に入って下さい」
「いやだぁ」
「名前さん」
「むー…」
私は自分の部屋に入りたくないと駄々をこねる。
端からみたら、この男女はマンションの通路で何をしているのかといったところか。
「そんなに入りたくないのですか」
「うん」
「…はぁ。でしたら、」
なんだろ。
もう一回ちゃんとGを探してくれるのかな。
退治してくれたら私も部屋に入れるもんね。
がんばって比呂、
――私の部屋に来ます?
そんな誘い文句ってある?
自分の家を悪魔に奪われた女の子は、王子様に手を引かれ、彼のお城へ行きましたとさ。
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