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テニス短編
仁王先輩へプレゼントを -side仁王-
苗字は、俺のことが好きなんだと思っていた。




俺の1コ下で入ってきたマネージャーの苗字名前。何事にも一生懸命で純粋で、からかい甲斐のある奴。いつからじゃったか、そんな苗字が可愛くて仕方がなくなってしまったのは。

苗字は俺のことをどう思っているのか、最初は多分ただの先輩としか思っていなかっただろう。絶対に好きにさせてみせる、俺のことを好きにさせて、好きだと言わせたい、そう思った。

それから数ヶ月、苗字の俺を見る目が変わったのに気付いた。苗字は分かりやすい奴じゃからの。今告白すれば絶対にOKを貰えるじゃろう。じゃが、目標は苗字から告白させること、俺から言ったんじゃ意味がない。


「のぅ柳生。苗字って俺のこと好きじゃよなぁ…」

「……そう思っているなら、さっさと言ってしまえばいいじゃないですか」

「言えん」

「何にこだわっているか知りませんが…詐欺師も形無しですね。でも、それが恋というものですよ」


そんな風に柳生に言われたこともあった。そんなこと自分でも分かっとる。苗字から告白させることが目的だからと自分に言い訳しているだけで、ほんとは自分から告白する勇気がないだけじゃ。もしかしたら俺の勘違いじゃないだろうか、俺なんかと苗字は釣り合わないんじゃないだろうか、そんなことばかり思ってしまう。正直自分がこんなにヘタレじゃったとは思ってもみなかった。


そして何も言えないまま、部活を引退する日。帰り際に、赤也と一緒におる苗字を見た。苗字はどうしようもないほど泣いとって、赤也に慰められとった。2人でぴったりと隣に並んで座って、苗字は素直に赤也に頭を撫でられている。


…そうか、苗字は赤也のことが好きなんじゃ。結構お似合いじゃないか。そんな風に思ってしまった。







「やーぎゅ。昼飯行くぜよ」

「はい、あ、今日はお昼を食べたら行くところがありまして」

「そうなんか」

「はい、苗字さんに図書室で話があると言われています」

ドサッと、購買で買ってきたパンが入った袋を床に落としてしまった。俺としたことが、何を動揺しとるんじゃ…。

「おや?どうされました、仁王君」

こいつ…面白がっとる。眼鏡の奥の目が笑っとるぜよ。

「柳生、飯食ったら俺と入れ替わるぜよ」

「はぁ…まぁいいでしょう」

部活を引退して、めっきり会う機会が少なくなってしまった苗字。俺はあれからもやはり苗字のことが忘れられなかった。そんな時にこの柳生の言葉。柳生になんの話があるっていうんじゃ。なんの話かは知らんが、柳生が入れ替わってもいいと言っとるんじゃから、いいじゃろ。どんな形でもいいから、苗字に会いたかった。




「あの、柳生先輩っ」

「どうされました、苗字さん。話があるとのことでしたが」

「あ、はい…あの、仁王先輩のことなんですけど…」

柳生に話があるなんて何の話だと思っていたら、まさかの俺の名前が出てきて一瞬ドキリとした。が、すぐに平然を装う。幸い苗字は鈍感じゃし、変装にも全く気付かれていないみたいじゃ。

「仁王君がどうかされました?」

内心ドキドキしながら聞き返す。絶対顔には出さんけど。

「あの、仁王先輩が最近欲しがっている物とかって分かりますかっ?」

俺が欲しいもの……俺はお前が欲しいんじゃけど。真剣な目で見つめてくる苗字が可愛くて仕方がなかった。そうか、そういえばもうすぐ俺の……

「仁王君ですか…あぁ、そういえばネジとドライバーが欲しいと言っていましたね」

「ネ、ネジとドライバー!?」

ふふ、困っとる困っとる。ほんとはネジとドライバーなんて微塵も欲しくないんじゃが、少しこいつを困らせてみたくなってのぅ。

「わ、分かりました!ありがとうございます!」

そう言って、苗字はパタパタと走って図書室を後にした。

さて、苗字はどうするかの、困って俺のところへ聞きに来てもいいし、ほんとにネジとドライバーを渡してきても面白いのぅ。

「仁王君、もうよろしいですか?」

俺の格好をした柳生がそう言いながら、俺のところへ来る。

「あぁ、満足ぜよ」

「まったく、あんまり苗字さんを困らせないでくださいね」

「プリッ」






今日は俺の誕生日。朝から沢山プレゼントを受けとった。俺はいつ苗字が来てくれるか楽しみにしていた。だが、放課後になっても、苗字は現れなかった。

(くそ、なんでこんなにイライラするんじゃ…)

そんな時、前方からワカメ頭が走ってくるのが見えた。赤也、こいつは毎日苗字と過ごしとるんじゃよな…。

赤也は俺の前で止まると、手紙のようなものを俺の胸に押し付けてきた。

「………果し状」

「そ、そういうことッスから!今から部室に来てください!に、逃げんじゃねーぞ!」

そう言って赤也は走り去っていった。果し状なんて初めてもらったのう。そういえば前にも赤也は3強に果し状を叩きつけとったらしいが。まさか俺も貰うことになるとは。じゃが何もこんな日に渡さんくてもいいじゃろ、馬鹿なんかあいつは。今は虫の居所が悪い。しかも赤也の顔をみたら更にイライラしてきた。果し状…せっかくじゃ、赤也をボロボロにしてやるかの。




「ハッピーバースデー!!!」

部室へ入ると、パン!パン!といくつものクラッカーが俺を目掛けて放たれた。そこには懐かしいと呼ぶにはまだそれほど時間は経っていないいつもの顔ぶれ。苗字も笑顔で「仁王先輩!おめでとうございます!」と拍手をしている。

「な、なんじゃ、みんなして」

そうか…俺としたことが、まんまと赤也に嵌められたのぅ……。あの果し状は俺をこの部室におびき寄せるための罠じゃったか。


それからは丸井の作ったケーキをみんなで食べたり、柳生の作ってきたポエムをみんなで聞いたり、久しぶりにこのメンバーで過ごす時間はとても楽しいものじゃった。




みんなからそれぞれプレゼントを貰う。そして、まだ貰っていないのは苗字だけとなった。苗字の方へ目をやると、赤也と何やら話していた。目の前でイチャつかんでほしいのう。そんなことを思い目線を反らす。しかしそのすぐ後、苗字が俺の名を呼んだ。

「に、仁王先輩!」

「なんじゃ、苗字」

少し前まで、苗字が赤也と話していたことに苛立っていたのに、苗字に話しかけられるとそんなことケロッと忘れるのか、俺は優しい声で苗字に応えていた。

「あ、あの…えっと…」

しどろもどろする苗字の頬が、段々と紅くなっていく。

「あのっ、私、いつもお世話になっている仁王先輩に何かプレゼントがしたくて、それで、柳生先輩に仁王先輩が何を欲しがっているか聞いたら、ネジとドライバーだと聞いて、あの、ホームセンターまで買いに行ったんですけど…種類が多くてどんなのがいいのか私には分からなくて…あ、もしいらないのをプレゼントしてしまったら困らせてしまうし……だ、だから、今度、仁王先輩のお誕生日プレゼントを買いに…その、一緒にお出掛けしてほしいんです!!」

何かを決意したようにそうまくし立てて言った苗字。顔はもう真っ赤で、下を向いていた。


ネジとドライバー、ほんとに買いに行ったんじゃな…ホームセンターでネジとドライバーと睨めっこする苗字が目に浮かぶようで、ふふっと笑ってしまいそうになる。

そして結局ネジとドライバーは買わなかったと。だから今度俺のプレゼントを買いに一緒にお出掛けしたいじゃと…。

苗字、そんな顔でそんなことを言われて、俺は期待してしまうぜよ?


「それは、デートのお誘いかの?」

顔がニヤけそうになるのを必死に抑えて、俺は苗字に平然と尋ねる。

「へっ!え、えっと、その…そ、そうです……」

「分かった」

「え!!いいんですか!!」

いいに決まっとるのに、なんでそんなに嬉しそうなんじゃ。

「じゃが、プレゼントは今貰ってもいいかの」

「あ、あの、そのプレゼントを買いに、今度ーーー」

そんなことは分かっとる。もちろんデートには行く。じゃが、俺はもう今、苗字が欲しくて欲しくてたまらないんじゃ。

「俺は苗字が欲しいんじゃけど」

「…へっ?」

俺の言葉がそんなに意外だったのか、一瞬遅れて驚きの声を出す苗字。

「あ、あの仁王せんぱっ…きゃぁ!」

俺は苗字の肩に手を回すと、瞬時に抱き上げた。苗字はびっくりしたのか、俺の首に腕を回す。驚かせてすまんと思ったが、なんて役得じゃろう。顔が近くて、密着していて、可愛くおどおどしとって、このままちゅーしてやろうかと思った。

「ということで、このまま帰ってもいいかの。パーティーありがとのう」

じゃがさすがにここでは出来ないので、このまま帰ることにする。

「うん、お幸せに」

「返品は不可っすからねー!!」

幸村と赤也が言った。赤也は清々しいほどの笑顔で、今初めて、苗字と赤也のことは誤解じゃったんじゃと気付いた。そして周りを見渡すと、驚いた顔の真田、やれやれと言った顔をした柳、丸井、ジャッカル、柳生。柳生には相当苦労を掛けたのう。まぁ半分は面白がってたような気がするが、今度何かお礼でもしておくか。





「先輩っ、そろそろ降ろしてほしいんですけどぉ…」

部室を出て、このままほんとに帰ろうと思っていたが、そうもいかないようで、苗字がそう呟いた。顔を真っ赤にして恥ずかしそうな苗字。壊れ物を扱うようにゆっくりと降ろしてやる。

なんでこんなに可愛いんじゃろうか。さっきまで感じていた苗字の温かさ、甘い香りを逃さないように、そのまま向かいあって見つめ合う。

「苗字は、俺が嫌いか?」

苗字が可愛すぎて少しいじわるをしてみたくなって、わざとムスッとした顔で聞いた。

「え!!そんな、嫌いなんて、あり得ないです!!むしろ…!」

慌てて反論する苗字。面白いほど誘導尋問にひっかるのう。思わず口元が緩んだ。

「むしろ?」

聞き返すと、苗字は少し驚き、そして泣き出しそうな顔をした。

「仁王先輩っ…大好きです!ずっと前から大好きでした!!」

苗字の涙が溢れる前に、俺は苗字を引き寄せていた。あの温かさと柔らかさと甘い香りが再び舞い戻ってくる。

「遅いんじゃ、ばか…」

馬鹿なのは俺の方か。こんなに苗字を待たせてしまった。苗字、俺も大好きじゃ。俺は苗字をぎゅうっと抱きしめる。泣きながら俺にしがみつく苗字が愛おしくて、腕の力を更に強め苗字を引き寄せた。





苗字、祝ってくれてありがとな。

苗字、俺はお前に会うために生まれてきたんかの。

出逢ってくれて、ありがとう。

苗字、最高のプレゼントをありがとう、ずっと大切にするきに。

苗字、大好きじゃ。

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あきゅろす。
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