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テニス短編
キスがしたい *財前
今日は週に1度のオフの日。俺はHRが終わるとすぐに階段を上がり3年生のフロアへと急ぐ。

そして3年2組の教室の後ろのドアから入って、部長と謙也さんと楽しそうに喋っていた名前さんの腕を掴んだ。

「名前さん、そんな人達ほっといて帰りましょ」

「財前ー!お前なんでそういつも3年の教室に普通に入ってこれんねん!」

「謙也さんうっさいっすわ。1年上ってだけで偉そうにしないでください」

なんやとー!とまたギャーギャー騒ぐ謙也さんを横目に、俺は名前さんの手を引いて歩き出した。


「光くん、いつも迎えに来てくれてありがとね」

廊下を歩きながら、ニコッと笑ってそう言う名前さん。あーもう名前さん可愛い。癒される。

「全然大丈夫ですよ。一刻も早く名前さんに会いたいだけなんで」

そう言うと「私も〜」と言って名前さんは繋いでいた手に更に力を込めてぎゅっと握ってくれた。俺もそれに応えて強く握り返しながら、幸せを噛みしめる。ほんま、なんで名前さんはこんなに可愛いんや、天使か、天使に違いない……。

そして俺は名前さんにキスがしたくて仕方がなくなった。オフの日はいつも放課後デートをして、その時にキスできるチャンスはいくらでもあるんやけど、今したくてしょうがない。学校の外に出るまで待つなんて無理や。そう思って、俺は名前さんの手を引いて空き教室に入った。

「光くん…」

俺は名前さんを教室の後ろの壁に追いやって、名前さんを見つめる。見つめ合いながら、少しずつ顔を近付けた。そしてもう少しで唇に到達する、というところで俺の唇には違う感触が伝った。名前さんが俺の口を両手で抑えたのだ。



「あっ…あの、光くん……しばらく、ちゅー禁止」



………は?今、名前さんなんて言った。ちゅー禁止?ちゅーって………キスのことちゅーって言うんか、なんやそれくそ可愛ええなっ……じゃなくて、禁止?俺、なんか名前さんに嫌われることしたんやろか………。

「俺、なんか名前さんに嫌われることしました?」

「ううん!違う!そういうことじゃなくて…!」

そう言いながら名前さんが俺のブレザーをキュッと掴んで見上げてくる。やめて、わざとやっとんの、それ。可愛すぎる。ともあれ嫌われたわけではなさそうなので良かった。

「昨日、舌をやけどしちゃいまして…」

「舌を?」

「うん……」

見せて、と言うと名前さんは可愛らしい舌をちょろっと出した。あぁ、確かにちょっと赤くなっとる……ちゅうか名前さんの舌可愛ええな、可愛ええ、可愛ええ、めっちゃ可愛ええっ………

「舌舐めてもいいっスか?」

「話聞いてたの光くんっ!?」

いやもう名前さんが可愛すぎるのが悪いというか。

「光くん、そうやって最近ちゅーする時舌入れてくるから…しばらく禁止っ」

ガーーーンと、俺の頭に金だらいが落ちてきたのかと思ったほどの衝撃。そんな、名前さんとしばらくキスできへんなんて………というか名前さん、舌入れられてる自覚あったんや。今名前さんにものすごく卑猥なセリフを言わせた気がして、めっちゃ興奮してきた。でもキスできへんのか……あ、でも舌入れなきゃいいんとちゃう?

「じゃあ、舌いれないっすから、キスしていいっすか?」

「うん、それなら…」

俺は名前さんの両肩を優しく掴んで、触れるだけのキスをする。



「……………」



なんやこれ、生殺しか!

もちろん触れるだけのキスでも充分嬉しいんやけど、舌を入れないでと言われたら逆にそればっかり意識してしまって、名前さんの唇を舐めて、舌を入れたくなってしまう。それではいけないと、俺はギリギリのところで思い留まって、名前さんからゆっくりと離れた。

「…ほな、行きますか」

「うん!」

小さく深呼吸をひとつして、また名前さんと手を繋いで、空き教室を出た。



その日の放課後デートは結局キスしなかった。またキスしたら今度こそ歯止めが効かなくなる気がして。舌のやけどって地味に痛いのに、キスして名前さんが更に痛い思いするのはやっぱり嫌やし。

次の日、いつも一緒に過ごす昼休みもキスはなし。





そしてそれももう3日目。もう限界かも。名前さんとキスしたい………。



「はぁ…」

部活が終わって部室で着替えながら、思わずため息が出てしまった。

「なんや財前、最近元気ないやんか。部活も身入ってなかったで?」

「謙也さんには一生縁のない悩みっスわ」

「ハァ!?なんやねんそれ!」

名前さんとキスできないってことが1番悶々としている原因やけど、名前さんがあんまり気にしていない風なのも寂しかった。今日の昼休みも普通やったし。俺とキスできへんくても名前さんは別にどうでもいいんかな。俺ばっか名前さんとキスしたいみたいやん……。





「光くんっ」

先輩らと部室を出て、1番後ろを歩いていたら声が聞こえた。名前さんや。なんで。帰宅部の名前さんがテニス部が終わる時間まで学校におるなんて。名前さんを待たせるのは悪いから、いつも先に帰ってもらっているのに。

名前さんがとてとてと俺に近付いてくる。名前さんに声を掛けようとしていた謙也さんは部長が引っ張っていってくれた。



「あ、あの、やけど治ったから、その……ちゅーしよう?」







……あー、もう、この人、ほんま好き。


この3日間の悶々と過ごした時間の責任はしっかり取ってもらいますよ?



俺は名前さんの手を引いて、誰もいなくなった部室へと引き返した。

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