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テニス短編
氷上の王様(跡部視点)
「あかんわ、跡部。『跡部君と何喋ったらいいか分からないからいい』やと」

「………なぁ、もう普通に話し掛けてもいいか?」

「そんなことしたらダメよ〜。名前は男の子が苦手だって言ったでしょー。いくら跡部君でもいきなり話し掛けられたら怖がるよ。しかも学校でなんて絶対ダメ。他の子の目もあるし」

放課後のファーストフード店。ここに3人で集まるのは何回目だ。ここのジャンクフードに慣れてうまいと思ってしまうほどには通っているか。

忍足に新しい彼女が出来たと報告され、別に興味はなかったが誰なんだと聞いたら秋本彩乃だって言うじゃねぇか。秋本といえば苗字といつも一緒にいる奴だ。秋本を今すぐ呼べと言う俺の言葉に不審がりながらも秋本を呼んだ忍足、そのまま3人でこのファーストフード店に来たことから始まった。


ーー

「な、何か用かな、跡部君」
「そやで、俺の彼女になんか話でもあるん?」
「……しろ…」
「?なんやて?」
「だから…苗字名前を俺様に紹介しろっつってんだよ!」
「………」

ーー

その後、この2人は大爆笑しやがったな。秋本は「え?え!?跡部君、名前のことが好きなの!?」と何回も確認してきて、忍足は「跡部が…紹介して…とか…あかん腹痛い」と腹を抱えていつまでも笑っていた。

俺だってこんな奴らに頼りたくなかったが、こうするより他なかった。なぜ苗字を好きになったのか自分でも分からないが、廊下ですれ違う度、学校行事で姿を見る度、訳もなく惹かれていった。3年間でクラスも一緒だったことがない、全く接点のない俺と苗字。何度も接点を作ろうと思ったが、聞こえてきたのは苗字は男が苦手だという噂。なんでも苗字は結構男に人気があるらしいが、今まで近付けた男はいないらしい。

そういう理由があり、俺もなかなか近付けないでいた。嫌われたんじゃ元も子もないしな。そんな中で出来た俺と苗字の接点。これを利用しない手はない。が、あれから秋本に何回かそれとなく4人で遊べないかと苗字を誘ってもらっているんだが、なかなか実現しなかった。


そんな中、「そうや!」と忍足が何か思い付いたように手を叩いた。

「苗字さんは跡部と何話せばいいか分からんって言っとるんやで、それやったら何か苗字さんの好きな話題を話せばいいんや」

「苗字は何が好きなんだ?」

俺は秋本に問いかける。秋本は少し考えて、口を開いた。

「んー。あ、フィギュアスケート」

「フィギュアスケート?」

「うん、名前がよく好きって言ってるの。跡部君はフィギュア観る?」

「観たことはあるが、そんなに詳しくはねぇな」

「それじゃああかんな」

「あーん?これから詳しくなればいいんだろ!」

「跡部君て…」

「なんだよ」

「ほんとに名前のことが好きなんだね」

秋本の横でシェイクを吹き出す忍足。笑うんじゃねーよ。秋本も、何感心した風に言ってんだ。あぁ、好きですよ、好きだからこんなに必死なんじゃねーか。




タイミングがいいことに、今日からフィギュアスケートの大会が行われるらしい。俺は自分の部屋のテレビを付け、録画もセットをしてソファに座った。ほどなくして番組が始まる。苗字も今頃、同じ番組を観ているだろうか。


それから試合が行われた3日間、その翌日のエキシビジョンマッチまで全部観た。こんなにじっくり観たことはなかったが、夢中になって全部観てしまった。

「結構面白ぇじゃねーの」

それからいろいろな大会や選手の映像を取り寄せて片っ端から観た。選手のデータや逸話などもネットで調べた。それは苗字と話す話題作りのためということもあったが、途中から自分が楽しくなってしまってDVDを観たり調べたりしていた。




「おい、詳しくなったぜ。これからどうすればいいんだ」

「はっや。ほんまに詳しくなったんかいな」

「あぁ、何でも聞いてくれ。というかお前ら、フィギュアスケートは観た方がいいぞ。なかなか面白い競技だ」

「なんかそのドヤ顔むかつくわー」

「跡部君、ハマっちゃったのね」

それから3人で作戦会議。スケートリンクに行こうと誘ったら、フィギュアスケート好きの苗字なら来てくれるだろう。そして警戒されないように俺の名前は出さない。いざとなったらひとりで滑っていたらいいと。その約束を取り付けたならばもうこっちのもの。このチャンスは絶対にものにしてみせる。

俺はそれからその約束の日を待ち侘びた。そしてーーー










「っちゅーことがあってん。ほんま手が掛かったわー」

「跡部君があんなにヘタレだとは思わなかったよ。イメージ変わったよね」

「おい、ヘタレとはなんだヘタレとは」

いつものファーストフード店。いつもと違うのは、俺の隣に苗字がいるということ。

「私全然気付かなくて……ごめんね、すごく嬉しい…」

苗字は両手で口を押さえて、顔を真っ赤にしていた。なんだその顔は、可愛すぎだろ。

あとで2人きりになったら、抱き締めて、キスしてやろう。苗字が聞きたいと言ったから、この俺様のヘタレ話をしてやったんだ。
それぐらいご褒美を貰ってもいいだろ?

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