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テニス短編
おみくじと15年の片想い *手塚
「くにちゃん。おみくじがあるよぉ」

やろぉ〜、と名前が俺の腕を引っ張る。

そんなに忙がなくても、おみくじは逃げて行かないぞ、と言うと

「何言ってるの、逃げちゃうよ!」

と意味の分からないことを言う。
それが可笑しくて、少し笑ってしまった。
すると名前もこちらを振り向いて、ニコッと笑う。


――

名前とは小さい頃からの付き合いだ。
いつも気の抜けたような顔をしていて、危なっかしくて。

「くにちゃん」といつも俺の後ろを付いてきてくれる。それが可愛いくて仕方なかった。

テストの時は、当たり前のように俺を頼ってきた。課題を忘れた、と泣きながら来た時も、見せてやった。
不二に、甘やかしすぎ、と言われた。

本当に、目に入れても痛くなかった。
そう不二に真剣に話したら、馬鹿なの?と言われた。

名前には俺が必要。俺には名前が必要。
そう思っていた頃――



名前の転校が決まった。


転校といっても丁度高校に上がる頃。
高校は、引越し先の近くの高校に行くらしい。


行くな、

と言いたかった。


だが名前の性格からして、ひとり暮らしは無理だ。
家事が出来ないのもあるが、何より、寂しさで死んでしまうと思った。


俺の家へ来い――

しかし、俺にそこまで言える資格があるのか。

俺は名前の彼氏でも、なんでもない……


結局行かせてしまった。
名前は、泣いていた。
卒業式は人一倍。


「高校生になっても遊んでね」

泣きながら、何度も何度も言って。

言われなくても遊んでやるぞ、と何度も何度も頭を撫でた。



それから数ヶ月。

久しぶりに会った彼女から聞いた話に、言葉を失っち。


――彼氏が出来た―――



名前も高校生だ。そういう存在が出来たって不思議ではない。


それから何度も相談に乗った。
俺も彼女を作った。不本意だったが。
泣く名前に一晩中付き合うこともあった。
名前の幸せを考えつつ、別れを勧めてしまうことが何度もあった。


名前は、いつものほほんとしていて、ふらふらしている。

そんなことだから、悪い男に引っ掛かってしまうんだ。


俺にしとけ。お前が好きだ……


一度だけ、言ってしまったことがある。
泣く名前を胸の中に誘って、きつく抱きしめながら。

ありがとう、それだけ言われた。

泣きやまない名前。

答えなんて分かっていた。
ただ、言いたかっただけ。

「これからも俺を頼ってくれ」

相談に来てくれ――虫のいい話だ。


それから数ヶ月。名前から連絡はなかった。
あんなこと、言わなければ良かった。

名前と離れていることよりも、名前に彼氏の話を聞くことよりも、名前と話せないことが、こんなにも苦しいなんてな――





そう思っていた矢先。


「よくよく考えたら、私にはくにちゃんしかいないかもしれない」


と、いきなり俺の通う大学の門に現れた名前は言った。
この数ヶ月、名前は名前なりに、悩んでくれていたのだ。

俺の15年来の初恋は、こうして叶った――――





「きゃあ、大吉だー!やったぁ!くにちゃんは?」

「小吉」

くにちゃんらしいね!と笑う名前。

付き合うようになって初めての正月。

振袖を着てきてくれた名前は、本当に眩しかった。

毎日が幸せすぎる俺には、小吉のおみくじだって、名前が笑ってくれるための材料でしかなかった。


笑っていてくれ、と願う。
いつまでも、俺の隣で――

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あきゅろす。
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