その他 写真 *高尾(黒バス) 3年生最後の席替えで、ずっと好きだった高尾君の後ろの席になった。 それまであまり話したこともなくて遠くから見ているだけだった高尾君。明るくていつもクラスの中心にいる高尾君と、地味でいつもクラスの隅っこにいるような私とじゃ同じクラメイトだろうと接点がないのは当たり前で。 でも、最後の最後の席替えで前後の席になれた。しかも高尾君は席替えをしてすぐ後ろを向いて私に挨拶してくれた。高尾君のキラキラな笑顔を間近で見れて、しかもそれを私に向けてくれている。高尾君の挨拶ひとつでこんなに舞い上がれる私は相当単純なのだろうと思った。 それから高尾君と少しずつ喋るようになった。休み時間になる度に体を横向きに座り直して、高尾君は私とお喋りしてくれた。自習時間に高尾君が振り向いてくれたこともあって、教室が騒がしい中黙々と自習していた私の机の上に溜まった消しカスを指で捏ねて高尾君は遊び出した。その様子がなんだか可愛くて「それ楽しいの?」って笑いながら聞いてしまった。そしたら高尾君は「おぅ、楽しいからもっと消しカス作ってよ」と言ってきて、「そんなに間違えません」とまた笑って返したのはいい思い出。 そんな小さな幸せがいっぱい詰まったこの席とも、今日でお別れだ。 高尾君とも、今日で…………。 「た、高尾くんっ、良かったら、一緒に写真を撮って欲しいんだけど…」 卒業式が終わって、高尾君が1人になる瞬間をずっと狙っていた。人気者の高尾君だから、そんな瞬間今日は訪れないかもと弱気になりながら、ここ!という瞬間に人生最大の勇気を振り絞って高尾君に声を掛けた。 「おぉ!いいぜー!」 高尾君はいつもの人懐こい笑顔で快く返事をしてくれた。良かった。席が前後で少し喋ったくらいで写真を撮ってなんて図々しいかなと思ったのだけど、高尾君は優しい人だから良いと言ってくれるに決まっていた。 「貸して」 そう言われて私は持っていたスマホを高尾君に渡す。誰か撮ってくれる人いるかなとキョロキョロしていたら、右肩を掴まれて高尾君にぐいっと引き寄せられた。 「撮るぜー」 高尾君は右手で私の肩を抱いて、左手を伸ばして自撮りをする体勢。まさかこんな風に撮るなんて…!肩に乗った高尾君の手に、近い顔にドキドキして、恥ずかしくて、でも嬉しくて私は控えめにピースサインを作った。 カシャカシャカシャカシャカシャカシャ! 「ぷはっ!何今めっちゃ撮れたけど!」 「ご、ごめん!なんでだろう!」 なんだ今の音!私は高尾君からスマホを受け取り、確認をする。いつの間に連写モードになっていたのか、もう、なんでこんな時に……ものすごく恥ずかしくて少し涙目になる。 写真のフォルダをタッチすると、私と高尾君の2ショット写真がいっぱい並んでいた。 「はは!めっちゃ撮れてんじゃん!」 「ほんとごめんね!撮りすぎた分は消しとくからっ…」 口ではそんなことを言いつつ、多分私は絶対に消さないと思う。高尾君との最後の思い出だから。連写になってしまったのも、きっといい思い出になる気がするから。 「んー…別に消さなくてもいいんだけど」 「えっ?」 笑いながら「そうしてくれー!」とか言って軽く受け流すものだと思っていた高尾君がそんな風に言うから、驚いて聞き返してしまった。 「てゆかその写真送ってほしいから、連絡先教えてよ」 「え!あ、そ、そうだねっ、教える…!」 話の流れが急過ぎて付いていけない。私は高尾君のペースのまま、あれよあれよとアドレスを交換してしまった。 「あ、忘れてた。はい」 スマホに入った高尾君のアドレスに感動していると、高尾君が私の手を掴んで何かを手の中に入れて握らせてきた。何だろう、何か小さくて丸くて硬いもの……そう思ってゆっくりと手を開く。 「さっきからいろんな子に取られそうだったんだけど、苗字にあげようと思ってたから」 そう言う高尾君の学ランには、第二ボタンがない。 「じゃあ、今日絶対メールしろよ!お互い卒業おめでとう!!」 そう言って高尾君はいつものキラキラな笑顔で、走り去っていった。 手の中のボタンを見つめながら、今日で終わりじゃないのかも、と自覚して私が顔を赤くするのは、あと数秒後のお話。 [*前へ] [戻る] |