00≫≫PARALLEL
mauvais ange 1
十数年も前のあの日、やはり僕は貴方を救えはしなかったのです―――。
ガンダムマイスターとして目覚めた俺にヴェーダから最初に与えられた仕事は情報収集。
今後、ソレスタルビーイングが本格的に活動するにあたって必要な情報を集める。
この日はエージェント候補に対する調査。
その人物がソレスタルビーイングのエージェントに相応しいかどうか、その判断材料を集める。
もちろん判断はヴェーダが行うが、個人的には屑としか言いようが無い人物だった。
その男にいやらしく握られた手を拭う様に乱暴に手袋を指から抜き、イブニングドレスと長い髪を翻してエージェント候補が出席していたパーティー会場を後にする。
帰り際、何人かの男に誘われ、それを断るのに時間を食った。
外は酷く陰鬱な暗闇に覆われ、昼間の空気とはがらりと姿を変えていて、その不快感に溜め息を零す。
早くホテルに戻ろうと会場の外で待機している車に乗り込もうとした時、不意に手を引かれた。
「お姉さん、俺を買ってよ」
…これだから地上は嫌いだ。
夜になると金持ちが集まる場所には、こういった生業に手を染めた人間が寄ってくる。
何世紀もの時代を経ようが、人間の性に関する歴史にはあまり進化は無い。
「…そんな趣味は無い」
手を振り払おうとしたが、存外強い力で握られている様でそれは叶わなかった。
「お姉さんが買ってくれないと俺、野垂れ死ぬよ」
「知った事か」
振り返り初めてその顔を見た。
意思の強そうな瞳の碧に、思わず吸い込まれそうになる。
「お願いだからさ…ね?」
人好きのする笑顔とは裏腹に、その手は震えていた。
「………」
これは気まぐれだ、と何故か自分に言い聞かせながら、俺はその少年をホテルの部屋に入れてしまった。
部屋に入るまでの間、車の中でもホテルに着いてからも俺の手を掴んで離さない彼に多少の欝陶しさは感じたが、その手はさっきのエージェント候補に握られた時よりもずっと心地良く感じた。
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