00≫≫PARALLEL
mauvais ange 2
「何する?何でもするよ?」
言葉の裏に淫猥な意味を見てうんざりする。
「そんな趣味は無いと言った。金はやる。何もしなくて良い」
ベッドに腰掛け、脱いだハイヒールを転がしながら言い捨てる。
「それじゃ困る」
俺だって商売なんだから…と、彼は跪いて俺が床に転がしたハイヒールを拾い、ベッドの脇に揃えて置いた。
無駄な所で真面目な事を言い出すのに面食らった。
かといって、やはり俺に性的な欲求は無い。
「なら…話し相手になれ」
特別話しをしたかった訳ではないが、成り行きとはいえ彼を買ったからには仕事を与えてやるべきなのだろう。
それが彼の仕事だというのだから。
「オーケー。何を話そうか」
彼はそれで納得してくれたらしい。
俺の隣に座って、笑顔で俺の言葉を待つ。
「名前は?」
面倒を感じていたから在り来りな質問を投げたが、彼は気にする様子もなく答えた。
「ニール」
「本名か?」
「うん」
「こういう世界で、安易に本名を口にするな」
「ふーん…じゃあ、お姉さんの名前は?」
「君の好きに呼べば良い」
「それ良いね。俺も今度からそうやって言うよ」
「勝手にしろ」
安易に本名を口にするあたり、余裕を感じる態度の割にはこういった世界にはあまり慣れてはいない様だ。
ニールの話し方はそれなりに育ちの良さを感じたし、学もある。
何故こんな仕事を始めたのか、何か特別な事情があるのだろうか―――と、疑問が浮かんだが、すぐにその疑問を頭から消した。
知った所で、どうしようもないのだから。
「アンジェ」
不意にニールが俺に向かって言った。
「?」
言葉の意味が理解出来ずにいると、ニールは得意そうに言った。
「お姉さんの名前。好きに呼んで良いって言ったから。どっかの言葉で天使って意味だったと思う。俺、お姉さんを見た時、天使だと思ったんだ」
「馬鹿馬鹿しい」
数年後には、世界を敵に回す自分に『天使』などと…。
自嘲気味に言ってやればニールは俺の手を握って笑った。
「そんな事無いよ。アンジェは今日の俺を救ってくれた」
「明日は救わない」
「解ってるさ」
そう言って、やはり笑った。
「………」
『無理に笑わなくて良い』
この時の俺は、そんな風に言ってやりたかったのかもしれない。
しかし声にはならなかった。
「何もしないからさ、一緒に寝てくれる?」
そう問われ、何故か俺はすんなりと了承した。
「ああ…良いよ」
ニールは安堵の表情を一瞬見せ、甘えるように俺に抱き着いた。
少年といっても十四、五歳………それなりの体躯をしているニールが、小さな子がするように俺に縋るのに、正直そんな風に人と接した事の無い俺はどうして良いか解らずにいた。
「髪、長くて綺麗だね」
ツン、と後ろ髪が一房、後ろに引かれた。
「引っ張るな」
ニールが抱き着いたまま私の髪に悪戯をしているのも、何故かきちんと止める気にはならなかった。
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