00≫≫PARALLEL
利己的な遺伝子
〜If you appeared.〜 1
「よぉ、久しぶり」
その男は、以前と何も変わらない飄々とした態度でそこに居た。
「ロックオン…」
今この場にティエリアが居なくて良かったと心底思った。
それでも、子供を連れていたから決して良いタイミングとは言えなかったけれど。
お茶でもしないか、と誘われるままこの小さなカフェまで来てしまったが、その場で別れてしまえば良かったと後悔している。
貴方が生きていて嬉しいよ。
でも、死んだままでいれば良かったのに。
コーヒー二つとオレンジジュースを運んだウェイトレスが来るまで、僕はただ下を向いていた。
時折、隣で興味深そうにロックオンの顔を見詰める娘に気を遣りながら。
「お前の子供か?」
右目は、再生治療か義眼かは判らないが、かつて負った傷は跡形も無く僕を射抜いた。
「…そうですよ」
僕の答えは酷く淀んでいた。
この子はロックオンの遺伝子を受け継いだ子供で、端から見たってロックオンが父親で、僕は他人。
「母親似、かな」
「………」
滑稽だ、と僕の半身が笑った気がした。
解っているのに、核心に触れない会話はとてもいびつで居心地が悪い。
「アレルヤ…『奥さん』は元気か?」
「…元気、ですよ」
「………そうか」
それっきり、ロックオンは黙ってしまった。
オレンジジュースを飲む、僕の隣の娘を愛しそうに見ながら…何も言わなかった。
『会いたい』って言われたらどうしようって、少し身構えていた僕はそっと安堵の息を漏らした。
おかしいな…ロックオンが現れる前までは、絶対に渡さないって決めてたのに―――気持ちが揺らいでいる。
「じゃあな、お嬢ちゃん」
別れ際、僕に抱かれた娘を見るロックオンの視線は、きっと父親の包み込む様なそれだと感じた。
会った事なかったのに、やっぱり彼は父親なんだと僕は酷く絶望した。
「お帰り、遅かったな」
「うん…少し」
夕食に少し遅れた僕達を、ティエリアは呆れた顔をして迎えてくれた。
食卓はいつも通り。
僕が嫌いなジャガイモが、僕を避ける様に置かれている。
「…ジュースを飲んだのか?」
上の空になっていた僕は、ティエリアのその言葉に肩を震わせた。
食が進まない娘に『どうして食べないんだ』とティエリアが聞いて、娘は正直にカフェでジュースを飲んだ事を話したらしい。
彼女は一緒に居た男の事を話すだろうか。
ティエリアは鋭い。
もし話されたら気付いてしまうかもしれない。
だけど、すぐにティエリアの怒りの矛先はジュースを飲ませた僕に向いて、僕の不安は杞憂に終わった。
「まったく…君は子供に甘過ぎる」
曖昧に笑ってその愚痴を流しながら、どこか諦めに似た気持ちで僕は二人を見ていた。
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