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00≫≫PARALLEL
利己的な遺伝子
〜If you appeared.〜 2



子供を寝かし付けたティエリアがリビングに戻って来るのを待った。

とても憂鬱だ。

どうしてこんな気持ちになるのかな。
ティエリアと一緒になったのだって、そこに愛情なんか無くて…ただ、産まれてくる子供を育てる事で、子供達を殺した罪から逃れたかっただけなんだ。

それだけ、なのに。


静かに子供部屋の扉が開いた。
起こさない様にそっと閉めるティエリアは、『やっと眠ってくれた』と少し微笑んでいた。

「ティエリア」

「何だ?」

ああ―――なんて僕って奴は馬鹿なんだろう。

勝手にいなくなって、突然現れたあんな野郎なんかどうだっていいのに………。

「…ロックオンに会ったんだ」

ティエリアの喉から息を飲む音がした。
赤い目が、閉じる事を忘れた様に見開かれる。

「元気でいたよ…君の事も気にしてた」

だから、会っておいで―――そう告げたけれど、ティエリアは固まったまま。


…混乱させちゃったかな。
どうしてもっと上手く自然に言えないんだろう、僕は。

いたたまれない気持ちになって、子供部屋に逃げた。




カーテンの隙間から射す月明かりの中、安心した様に眠る娘の頭を撫でた。
柔らかい髪が、指に絡む。

本当に、この子はロックオンにそっくりだ。
まるで自分の遺伝子を誇示するかの様に。
ティエリアに希望を与えたのは自分だと言わんばかりに。


だけどね………この子が産まれてから、今までずっと成長を見てきたのは僕なんだよ。

知らないだろう、ロックオン。

難産で、未熟児で、産まれてすぐに生死をさ迷った事を。
心配で心配で、眠れない日々が続いた。
やっと保育器から出る事が出来たこの子が、小さな手で僕の指を握ったその力強さを。

初めて寝返りがうてる様になった時、ハイハイをした時、立った時、歩いた時―――僕を見て『パパ』と呼んでくれた時。


全部、全部、僕は覚えてるんだ。
貴方が知らないだろう時間を、僕は見てきたんだ。

悔しくて、悲しい。

ただ遺伝子が違うというだけで、僕はこの子の父親にはなれない。

ティエリアへの希望は、彼との遺伝子だけなんだ。



どれくらいそうしていたのか、不意に子供部屋の扉が開き、ティエリアが居た。
覚悟を決めて、その言葉を待つ。

ティエリアがロックオンを本当に愛している事を知ってる。
彼が残したたった一人の娘を、大事に大事に育ててる。
あんなに生活力の無かったティエリアが、地上で必死に。

だから―――…

「…ロックオンには、会わない」

「え―――?」

覚悟を決めていた僕に投げ掛けられた思ってもみなかった言葉に、ティエリアを振り返った。
リビングからの逆光で、その表情はわからない。

「生きているならそれで良い」

「…何で…!」

ティエリアはそっと僕の隣に来て、僕がしていた様に眠る子供の頭を撫でた。

「この子の父親は君だ。アレルヤ」

「違う、僕は…!」

この子を罪悪感から逃げる道具にしていたんだ。

罪の無いたくさんの子供達を己のエゴで殺した僕が、たった一人の子供を慈しむなんてどうかしてる。

そんな事で幸せを得ようなんて誰が許すものか!

「アレルヤ」

ティエリアは、真っ直ぐ僕を見詰めた。
その視線を正面から受け止めるのは、とても久し振りだと気付く。

「今でも私はロックオンを愛してる…けど…」

一度言葉を切って、ティエリアは僕の頬に手を添わせた。
娘にするのと同じ様な、家族を愛する優しい仕種で。

「私は…君と、この子と、三人で過ごしてきた時間と幸せを手放す気は無いんだ」

ロックオンとの間に流れた年月は、もう埋まる事は無い…と少し悲しそうにティエリアは言った。

僕は思わずティエリアに泣き縋った。
娘が起きなくて良かったと、頭の隅で思いながら。


ねぇ、ハレルヤ…こんな事を願ったら可笑しいかな?

僕はこの子の父親になりたいんだ。
ティエリアの夫でありたいんだ。
例え偽物の家庭でも、この子と彼女がくれた幸せは本物だった。
いつの間にか、本当にこの家庭を愛していたんだ。

ねぇ、マリー…僕も君との思い出に縋りながら、それでもこの幸せを手放す事は出来ないよ。



明くる日、僕は指輪を握り締めティエリアに向き合う。


―――僕は君と恋人にはなれないけれど、君が産んだあの子の父親になりたいんです。

だから、僕と夫婦になって下さい。

偽りではなく本物の家族になって下さい。


そう指輪を差し出す僕に、ティエリアは呆れた様な困った様な表情をし、ため息を一つ零した後、笑って僕に左手を差し出した。

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