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00≫≫PARALLEL
愛を選んだ歓びを 2



思えば真っ直ぐに家に帰るなんてこれまで一度も無かった。

いつもはわざと遠回りをして、車を走らせている間に何か用事を作り出しては時間を潰していた。

真っ直ぐにティエリアの元に帰るという事が、まるで想いを伝えているようで。

自分の気持ちを自覚しているのに言葉と行動に出したくないのは、そこに逃げ道を作っておきたいからだ。

一度経験したあの喪失と恐怖を俺は忘れられない。

伝えあい、想いあったその先の終わりを、俺はきっと受け入れられない。




カギを閉める間も惜しかった。

玄関から直接向かった閉ざされたティエリアの部屋のドアはまるで俺を拒んでいるような錯覚を生んだ。

ノックもせずにドアノブに手を掛けて力任せに引くと、それは呆気なく開いて俺を部屋の中へ招き入れる。


灰色だった俺の世界に突然飛び込んできた極彩色。


初めて会った時に感じたその時のままで、殺風景な部屋の真ん中にティエリアは居た。


急に開いたドアに驚いているのか、大きな瞳を零れんばかりに見開いて俺を見る普段よりも幾分幼いその表情に目を奪われ、ただ自然にティエリアの元に歩もうとしていた俺の足は、ティエリアの言葉でそこに縫い付けられたように止まった。

「…ニール」

『ニール』―――途端、熱に浮かされたようだった頭は冷めていき、俺はようやくティエリアが何をしているのかを把握した。

足元のバッグに荷物を詰めている。

元々ティエリアの持ち物は少ない。

それでもたった一つのバッグに収まるほどだったのかと、逆に感心するほどだ。


俺が帰ってくるまでに出て行かなくとも、いつでも出ていく準備はしておこうって腹か。

まったく、ティエリアらしくて吐き気がしそうだ。


意図せず唇の端が上がるのを感じると、気付けばティエリアの側でその足元のバッグを拾い上げていた。

ティエリアが小さく漏らした声は、俺が持ち上げひっくり返したバッグから落ちる荷物がバタバタと床の上に散乱する音に掻き消された。

酷い事をしている自覚はあった。

それなのに、ティエリアは俺を責める事もなく、ただ上げた俺の腕に点滴の跡があるのを確認して安堵の溜め息を微かに零すのだ。

そう、痛いほどティエリアは全身で俺に伝えてくるのに。

ティエリア自身はその感情の名前を知らない。

俺にそれを伝える考えも持たず、ただ俺の為にと考えた結果が離れる事だったんだろう。

ヴェーダの計画のまま生きてきたティエリアにとって、信じる何かの為に自分を犠牲にする事はごく自然な事で、そうする事に疑問など何一つ無い。

それを考えると、どうして俺なんかにと思う。

もっとちゃんと教えてやれる人がいるかもしれない。


―――ここまできて、俺はその『ちゃんと教えてやれる人』になろうとは思わないのか。


情けなくて、逃げるように背を向けた。

「…勝手に出て行くな」

勝手なのはどっちだよ。

自分の言い分に呆れながら半ば自棄になって、ティエリアが俺に愛想を尽かせば良いとすら思いながら部屋を出た。

閉めた扉の向こうで、小さく『わかりました』と答える声が聞こえた。


ああ、泣きそうだ。

next...

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あきゅろす。
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