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BASARA≫≫SHORTSHORT
宵闇の月 1



ああ―――退屈だ。


強くなればなる程、退屈は増す。
頭首になってからは母から殺されそうになる事も無くなった。
それを退屈だと言うオレは相当狂ってる。

暇潰しに天下を狙ったが、それでも渇きは癒されない。


―――ここでも、オレの退屈は紛れる事は無かった様だ。




部下達から上がる勝ち鬨を聞きながら、地に伏し敗北に歪む毛利の顔を見下ろす。

綺麗な顔だが、それだけだ。

部下を駒と呼び、怜悧にそして冷徹に戦をすると噂の毛利元就。
多少期待していた…が、意外な程あっさりと中国は落ちた。

コイツには人望が無い。

少し突けば兵は散り散りに逃げ、最後まで抵抗を見せた毛利もこの有様。

「小十郎、後は任せた」

毛利の首を取れ、と小十郎に言い渡し、煤けた戦場を見渡した。

いつだって戦が始まる瞬間は高揚する。
だが、終わればまた退屈が襲う。
永遠に、戦が続けば良いのに………とすら願いたくなる。

「…政宗様」

不意に毛利の首を押さえた小十郎が、困惑した様子でオレを仰いだ。

どうやら毛利の首はまだ繋がっているらしい。

「どうした、小十郎」

オレが問うと小十郎は立ち上がり、耳打ちをした。
その内容にオレは再び毛利に視線を遣る。
…と、兜を外された毛利の、睨む視線とぶつかった。
その視線を無視して、乱れた着物の合わせに視線を移動させる。

白く細い首筋と、男には有り得ない僅かに膨らんだ胸元が左目に映った。


そう。
オレは退屈だったんだ。
そしてアンタは、オレのこの死にそうな程の退屈を癒せる―――そう、思った。




「Hey,元就サン。そろそろ飯を食ったらどうだ?」

冷えきった粥を一瞥し、猿ぐつわを噛ませた顎に手を添えて上を向かせる。
元々白かった肌は、今は病的なまでに青白い。
そして、瞳だけが殺意を持って強い光りを放つ。


オレは、その瞳にゾクゾクとした言い様の無い興奮を覚えた。


毛利を捕らえ城に連れ帰ってから、何不自由無い生活を与えてやった。
外には出られないが、食う物も、着物も、必要とあらば書物ですら与えた。

だが毛利は食事には一切手を付けず、隙を見ては自害を試みる。

最初は簪で喉を突こうとしていた所を小十郎が見付けて取り押さえた。
部屋の中にあるありとあらゆる先の尖ったもの、割れて鋭利な形状になるものを廃除したら、今度は帯で首を絞めた。

面白い事に死ぬ道具というのは尽きないらしい。

最終的には舌を噛もうとしたから、今は猿ぐつわをした上で、手足の自由も奪った状態。
流石にこれではすぐに死ぬ事は叶わない。


今ではただ、じわじわと死を待っている。


―――そうはさせるか。

口の端を上げて、毛利の顎を掴んだまま顔を引き寄せる。

「…元就サン、中国は今オレの部下が統治している」

「………っ!」

ぴくり、と目元が引き攣った。
その解りやすい反応に気を良くしたオレは、毛利の後頭部に手を回して猿ぐつわの結び目を緩めた。

「悪い様にはしねぇよ…もっとも、アンタの態度次第だ。解るな?」

粥の入った椀を引き寄せ、匙で掬って毛利の口元に運んでやった。

オレを睨む瞳は一層強さを増し、オレを喜ばせる。

毛利は屈辱感を滲ませながらも、オレの差し出す粥の載った匙に食らい付いた。

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あきゅろす。
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