十字の鎖
「今日はピサロさまにプレゼントがありますの」
ロザリーはほんのり頬を染めて言った。
「ほう」
ピサロは珍しく、読んでいた書物から顔を上げた。
「どうぞ」
つと差し出す箱を見て、ロザリーに視線を移す。
「開けてはくれぬか?姫」
ロザリーは無言で頷き、小さな箱から取り出した。一瞥をくれたピサロは薄く笑う。
「私に十字など…」
それは銀の十字架。凡そ彼に似つかわしい物ではないが、美しい彫りが施されている。忌々しい十字ながら彼の気に入った。
「今晩は居られる…?」
ピサロの眉が僅かに動いた。期待は失望に変わる。
だが今日はクリスマスなのだ。特別なのだ。
芽生えた苦い感情をぐっと飲み込み、ロザリーは言った。
「付けて差し上げますわ」
ロザリーはピサロの背後に回る。そしてゆっくりとそれを付けた。
「できましたわ…」
彼の首に掛掛けられた華奢な鎖を離し、その背にそっと添う。伝う涙は黒衣に吸い込まれた。
だが、その震える肩までは隠せない。ロザリーはピサロの背に添った事を後悔した。
ロザリーの変化に気がつき、ピサロはゆるりと振り返った。
「ロザリー」
ピサロはそっと、ロザリーの頬に触れる。こつ。何かが彼の手に当たった。その赤い石は彼が触れた刹那、さらさらと砂のように溶け、すぐに粒子になって消えた。
「すまぬ」
ふわりと揺れた蜂蜜色の髪からは甘い香り。その匂いとともにゆらり揺れるエメラルドグリーンの瞳。
涙に濡れて、まばたきで煌めく。
何度も這わせた視線である筈だが、引き寄せられる。
ぐらりと揺れる体を支えようと、ロザリーを抱き寄せた瞬間、彼の予定はまっさらになる。
今宵はクリスマス。
キリストの神はとうとう彼女の味方になった。
ーだって十字を切ったのだもの。
ロザリーは、彼の胸に光る十字の鎖に感謝の口付けを一つ、落としたのだった。
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