※五月雨
湿気を含んで重たくなった雲から雨粒がぽつりぽつりと屋根を叩いたかと思うと、大きな音と共に空が泣き出した。
「本降りになったようだ」
肩から下はシーツの中で、肘で顔だけ浮かしていたロザリーにピサロは声を掛けた。
「起こしてしまいましたか?」
「そなたが目覚める前から起きていた」
ロザリーは赤くなる。
「まあ…!では今までお芝居をしていたのですか。趣味がお悪いですわ」
「とうに知っているであろうに」
低すぎず、よく通って響くその声は、先ほどまで眠っていたからだろう、少し掠れていて、ロザリーはどきりとした。
「今日のピサロさまはいつもと違いますわ」
脈略がない事をいきなり曰うロザリーに可愛気を感じながら言葉を返す。
「ほう?」
「つっ……」
さらり、銀髪が揺れて、ピサロが上半身を起こすと、ロザリーは更に赤くなった。
それは彫刻のような素肌が露わになったからだった。
「声が……あっ…」
彼女の白い腕を引き、引き寄せながら聞き返す。
「声?」
動揺して左右に動く瞳を隠すためにロザリーは瞬きを繰り返す。
思考は止まり、動きもぎこちなくなりながら。
抱き寄せられた胸の厚さに、ゆるゆるとした溜め息を吐きながら、紡ぐ。
「反則…」
「?」
惹きつけてやまないのは、
雨で声が響くせい?
それとも、一晩共にした恋人が今、ここにいるから?
小さく呟いた言葉は雨音にかき消され、恋人には届かない。
「声か…。そなたの声は私に届くか、試したくなった」
しとねでの甘い声も雨音で聞こえぬものなのかどうか。
それで引き留めるという理由を彼女はつけられもするから。
互いに止まぬ事を願う
魅惑の甘い雨。
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