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パラレル
AIBOメーカー









※2心2体、アテムによるAIBO育成実況。
闇→表ですがギャク要素強めです。








夏休みに入ったので、今日は古本屋のゲームコーナーで見つけたAIBOメーカー(価格120円)をやってみようと思う。



「ゲーム機にCDROMをセット!デュエルスタンバイだ」


もはや定番となった掛け声を口にし、俺はコントローラーを手にした。

電源をいれ、画面にAIBOメーカーのロゴが現れる。次に出てきたのは厳かな音楽と邪悪な背景、そして総じてむさ苦しい男達の何か微妙な笑顔。



「…うーん…どれにするか迷うぜ……」


キャラクター設定で悩むのは当然のことだが、こんなに選ぶのを躊躇したことは初めてだ。

選べるキャラは総じて身長170cm以上のイケ…メン?のみ。まぁ、これだけなら面食いな女子や特殊な嗜好の女子が食いつきそうなのだが……何と言うか全体的に禍々しい表情をしているせいで全く萌えない。

辛うじて、この…ムカつく笑顔の海馬…せひと?…の隣にいる城之内…って奴が今のところ一番相棒っぽいような気がするが、城之内克也(AGO)←の括弧の文字が気になって迂闊に選べない。
他、闇バクラ、闇マリク……キースにパンドラ、牛尾哲……みんな目が死んでる。



「……まさにクソG……………ん?」


俺が躊躇いがちに十字キーを右に押し続けていると、キャラクター最終尾に点滅している影を発見した。
気になってそのシルエットをクリック。


すると……。




『待ってたよ☆もう一人のボク!』
「あ、ああああ相棒!」


俺は思わずコントローラーを放り投げ画面に貼りついた。


『ボクを選択する?それとも別の人にする?』
「…これッ……わ…ぁ」
『キミとだったらボクいい相棒になれると思うなぁ。へへ☆』
「…や、やう゛ぁいって……」


大きな縦目に小さな口。そして極上のぷにぷにほっぺに、ボクっこで中性的な口調。
その姿はむさ苦しいキャラデザの中で明らかに浮いていた。

…今までにないシンパシーを感じる。

俺は冷静になってもう一度コントローラーを握り直し、説明書を開く。
キャラクター一覧の最後に、シークレットとして紹介されているこのシルエットこそが…、俺の、…AIBO。



「俺は…このキャラを生贄にしてデュエル開始だぜ!ずっと俺のターン!」

ぴこーん☆

『やったね☆それじゃあいくよ!もう一人のボクッ』
「AIBOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


俺は叫びながらゲームを進めた。先ずは、俺の相棒(になる予定)のステータスの確認だ。…設定前のネームはむとうゆうぎ。


「…お、ツイてるぜ!俺の名は武藤宛夢。俺こそお前の相棒に相応しい男だぜ☆」


上機嫌でステータスを今までにないくらい熟読していると、俺はとんでもないことを発見した。


「……こ、高校生…だと!?」


完全に小学生だと認識していた俺は、テレビ画面でニコニコしている相棒を二度見した。


『もう一人のボク!』
「…こんなに可愛いのに」
『確認が終わったら○ボタンを押してね』
「二次性徴を迎えているだなんて…」


高2で身長153cm体重42kg。
俺と同い年で160cm以下…。

ありえないぜ!


『ボクは高校生だよぉ!』
「やっぱありだぜ☆」


タイミングよく膨れっ面になった相棒に、俺は親指を立て笑った。もう萌ざるを得ない。

最初クソGかと思ったけど、このゲーム…、完全に俺向けだぜ。

ゆうぎのキャラデザとか表情とか仕草とか台詞とかその他もろもろが、何より男子高生のむとうゆうぎの可愛いさが半端ない。

半端ない!



「AIBOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」


俺は再び叫びながら○ボタンを連打した。
これは乙女ゲーでもギャルゲーでも、ましてやエロゲーでもないはずなのに、俺は密かに期待している。

このゲームの果てにはきっと、俺の欲望を満たす熱い展開が待っていると…!!



『もう一人のボク!』
「イくぜ相棒!」


点滅する1日目の文字。
これから始まる相棒との新しい生活にwktkしながら、俺は丸1日このAIBOメーカーに熱中していた。






***




深夜12時を過ぎた頃には、遂に一年が経過し、俺と相棒の仲は親愛度MAXに。
それもこれもスキル上げにて、相棒が嫌がる勉強や運動を一切省き、魔法や作法、家事手伝いや親善活動など、比較的好感度の下がらないスケジュールをこしらえた結果だと言えるだろう。



『もう一人のボク!今日も頑張ってキミをフォローするね☆』
「ああ、頼んだぜ!相棒☆」


俺はナチュラルに返答しウインクをした。
正直、仕事の依頼は悉く失敗しているが相棒がさも可愛くドジを踏んでくれるので一切問題ない。


『…ごめんなさいもう一人のボク』
「ドンマイ☆」


初級の仕事さえクリア出来ない現状でも、俺は相棒に向かい親指を立てた。
しかし失敗が続くと相棒のストレスが溜り、自信ゲージが下がるので、俺は禁☆断の夜のお仕事(酒場バイト)で……。



『この衣装、ギリギリ過ぎるよぉ…!』
「…相棒はぁはぁ」



自信ゲージを溜めるという理由で、ちょい小悪魔スタイルの相棒を堪能したり、酒場のオヤジから絡まれ泣きべそをかく相棒にドキドキしたりしていた。

だが、俺は知らなかった。

夜の酒場ほど、相棒の人生を破綻させてしまうことを。



「…な、なんだってー!!!」


そう、夜通しゲームを続けていたら、俺の相棒が大変なことになってしまった。



『ボク、キミ一人の相棒でいるのに厭きちゃった』

→むとう ゆうぎ は、ふりょう に なりました。


「ま、ままま待ってくれ………」


昨日まで天使のような微笑みで俺を見つめていた相棒が……、1日明けたらとんでもない流し目を披露。
あまりの変貌ぶりに動揺を隠せない俺。更に服装まで変わっていて、画面の中に佇む相棒は、黒のボンデージに首輪という何ともエロティックな出で立ちになってしまっていた。



「あああ相棒…」
『夜のお仕事って大好き。だって楽にお金貰えるんだもん』
「だ、駄目だ相棒…夜のお勤めにやりがいを感じてはいけない!」
『それにね新しい相棒も出来たよ』
「…ゑ」
『毎晩楽しい遊びを教えてくれるんだ』
「ちょ、ちょっと待ってくれ相棒…」



雲行きが怪しくなり、俺は恐々次の台詞を開く。



『紹介するよ、新しい相棒の海馬君』
《聞け雑魚共…!この街は海馬コーポレーションの支配下となった!喜んで闇のデュエルに身を投じるんだなフハハハハハ!》

「貴様かぁぁ海馬ぁぁぁ!!!…………何だって!?」


いきなり悪役として登場してきた海馬に怒り狂う俺だったが、思わぬ単語が飛び出し唖然とする。
ま、待てよ…闇のデュエルってこのゲーム最大のアウトゾーンだったような………。


俺は説明書を読んだ。

手遅れだった。



「あ、AIBOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」



さようなら、もう一人のボク。

最後に見せた天使のように眩しい微笑みに俺は涙する。
徐々にフェードアウトしていく画面…聞き慣れたBGMがオルゴールverで流れ始め、ついに俺の涙腺は崩壊した。

エンドロールには俺と相棒が駆け抜けた砂糖菓子のように甘く輝かしい日々。
そして、夜の街灯に導かれ消えていく……相棒の後ろ姿。



「…無理ら」


点滅するNEW☆GAMEの文字。
俺は★rzの体制のまま落胆するしかなかった。






***





数日後、気を取り直して新規プレイ。



→勉強を続けさせる。
→運動を続けさせる。


『勉強やだよ〜』
「頑張るんだ相棒!」
『激しい運動いやだよ〜』
「頑張るんだ相棒!!」


→知能、体力がupしました。
→不満ゲージが上がりました。

「よし!もう一息だ相棒!」
『こんな酷いこと毎日させるなんて、もう一人のボクなんか大嫌い!』


→親愛度が50下がりました。


「…心を鬼にするんだ…俺」



俺は今相棒の嫌いな教科を毎日スケジュールに詰め込み、苦手克服を試みている。
前回は相棒に好かれることばかりを優先した為に、知識と体力が著しく低下し、そのため仕事を遂行することが出来なかった。

そう、全ては俺の判断ミスが原因だったのだ。



→今日は休日です。


『何をしようかな?』
「サ店に行くぜ!」


→ハンバーガーショップです。
→ハンバーガーを20個、 シェイクを20個買いました。


『ありがとうもう一人のボク♪』
「相棒の仕事ぶりが神がかってるおかげだぜ☆今度の休日はシルバーショップに行こうな!」


晴れて初級依頼を高成績でこなした相棒。
俺はそんな相棒にささやかなプレゼントを送り、親愛度を高めた。



「…感じる、俺と相棒の間にある固く繋がれた魂の絆を」


そんなこんなで月日は流れ、俺と相棒は晴れてゴールイン…。


「出来るんだ!?一応これ全年齢対象なんだけど!それとこれ、人生のAIBOメーカーじゃないんだけど!!!」


なんてありえない展開に動揺しつつも、相棒との幸せな結婚生活を満喫する俺。


そして、感動のエンディングへ。




『好きだよ…もう一人のボク』
「待ってくれ!相棒…!」



相棒は帰るべき星に導かれ、遠い遠い宇宙の彼方へ……




「…て、ぅえぇ!!?」



衝撃の事実。
相棒は宇宙人だった。



「シナリオが滅茶苦茶だぜ」


俺はその日、AIBOメーカーを古本屋に売った。








***





長い夏休みが開け、新学期を迎える。
俺はあれからまた新しい低価格ゲームを試みたが、結局満足出来るようなものはなかった。


未だに頭に残っているものと言えば、シナリオは糞だったものの、シークレットキャラクターが激カワ過ぎた、あのAIBOメーカーくらいだ。


「DDにデッキをセット、デュエル!」


席についたら第一声。
学校でも低価格デュエルに励む毎日。


「みんな席に付けー、転入生を紹介するぞ〜」


ざわ…ざわ…

そんなデュエル脳な俺を変える出来事が、新学期早々起ころうとは……。



「武藤!武藤はゲームを中止しなさい」
「ゑ?」「え?」

「あ〜、すまない武藤。今の武藤はアッチの武藤だ」
「…はぁ」


ざわ…ざわ…
ざわ…ざわ…

いつになく騒がしい教室に違和感を感じた俺は、ゲーム画面から顔を上げる。
すると次の瞬間、俺の目に飛び込んできたのは…………。


「それでは自己紹介を」
「…えと、北童実野から来ました、武藤…遊戯です。…ッよろしくお願いします!」


「あ…AIBOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


俺は叫びながらDDを投げ捨てた。


「…えッ」
「これッ…わ…ぁ」
「……あの、…ボク…」
「…や、やう゛ぁいって…」


大きな縦目に小さな口。そして極上のぷにぷにほっぺに、ボクっこで中性的な口調。
その姿はむさ苦しい童実野男子高の中で明らかに浮いていた。

…今までにないコスモを感じる。

俺は冷静になってDDを収拾し、説明書を開く。……って、そんな説明書は現実には存在しない!



「…あの武藤」
「ゑ?」「え?」
「いや、武藤宛夢。…後で生徒指導室に来なさい」
「はい」
「それから、武藤遊戯くんの席は、……可哀想に…宛夢の隣だ……」
「何!?」ガタ!「え〜?」



相棒からの熱い視線を感じ、オレは爽やかに親指を立て笑った。


合法ショタ、むとうゆうぎとの感動の再会……。
俺の人生のAIBOメーカーは、今始まったばかりだ。








おわり。














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