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パラレル
心の風邪 ○






※表→城の一方通行、初代寄り







遊戯が風邪を引いて寝込んでいることを知った城之内は、補習の後一人でお見舞いに行った。一階のリビングでお粥を食べていた遊戯は、城之内が来ると直ぐにM&Wに誘ってきた。

昨日の夜からずっと寝たきりで退屈なのだという。
家に帰っても一人きりの城之内は、遊戯が帰ってと言い出すまで一緒に過ごしたいと思い、居座った。


「ごめん…ボク眠くなってきちゃった」
「立てるか?」
「う〜ん…だいじょ〜……」
「ぶじゃねーよな〜ほら、背中乗れよ」
「…………う、ん…」


ゲームの途中で身体が傾いてきたので、城之内は遊戯をベッドまで運んでやった。

まだ身体が熱くパジャマの上からでもかなり汗ばんでいるのが分かる。
さっきまで元気が嘘のよう、遊戯の顔色は酷く悪かった。


「ありがとう…」
「あのさ、明日は学校来いよ…お前居ないとつまんねーから」
「…城之内くん」
「ん?」
「キス、していい?」


毛布にくるまった遊戯は苦しそうな顔でそう言った。
勿論言われた側の城之内は唖然として、遊戯に言われたことを二、三回頭の中で反復させていた。


「ボク、城之内くんのこと…好きなんだ。可笑しいかもしれないけど…ボクは今熱で頭がおかしいから、多分本当におかしいから病人の戯言だと思って聞き流してくれると嬉しいんだけど……城之内くんにこうやって優しくされると、嬉しいのに苦しくて、頭だけじゃなくて胸まで痛くなるんだ」


熱い吐息が何度も吐き出され、虚ろな瞳が宙を泳ぐ。
遊戯の本心を聞いた城之内は一瞬躊躇うように顔を伏せ、そして遊戯の傍らに膝をついた。

遊戯と城之内は、唯一無二の親友だった。
だった、というしかないのが痛ましいくらいに……二人はお互いに対してとても真剣だった。

けれど城之内に恋人が出来てから、遊戯は少しづつ心を離していった。
遊戯は純粋に城之内のことが好きで、彼に春が訪れるまで、自分の想いが特殊なものだとは気付かなかった。

……奪われて、初めて気付いたのだ。そして気付いたときには、少しづつ、少しづつ、互いの距離は離れていた。


「駄目なんだ…城之内くんと一緒に居ると、辛くて、息が出来なくなる……全然楽しくできないんだ、きっと、城之内くんを困らせる…………ごめんね。折角、ボクの家に、来て くれたのに……君にまで、こんな思い、背負わせること…無かった、の に」


遊戯は顔を真っ赤にして途切れ途切れにそう話した。
途中で何度も涙が溢れて、しゃっくりで息が出来なくなった遊戯は、とうとう枕に顔を押し付けて泣き出した。

この時城之内は初めて、遊戯が自分を欺いていたことに気が付いた。


「…ごめん、本当に、ごめんなさい………城之内くん、今日のボクは病気だから、また明日……元気になって君の前に立ったら、さっきみたいに、また 君と」

「遊戯」

泣き濡れた顔をあげると、覆い被さる影に言葉を飲まれた。
何十秒、何百秒、声を失ったのか。その瞬間はきっと、時間では測れない。

遊戯の瞳は、水を打ったように揺れた。


「城 之内…くん?」
「…熱いな、まだ熱があるじゃねーか」
「……ぁ」

やんわりと、城之内に両頬を包まれると、遊戯は甘く残酷な眩暈を覚える。
痛みと愛しさが目尻からこぼれ落ちて、小さな悲鳴を上げている。

その優しさが、遊戯を苦しめてしまうことに……彼はまだ気付かない。


「いいか遊戯……お前が寝たら俺も寝るから、そしたら夢の中でもう一回会おう」


城之内の言葉に、遊戯はゆっくりと目を閉じた。






焼けるような熱い夜に呑み込まれる。

愛しい手が、熱が、肌に触れる夢を見た。

小さく喘いで、身じろぎすれば、届かない筈の唇が遊戯の瞼を優しく撫でるから……

気持ちよくて、こそばゆくて、嬉しくて、だけど…………







「…………ごめんな」


健やかな寝息をたてて遊戯は眠る。
汗のひいた肌には夢の痕。小さな拳は、城之内の服の裾を握りしめたまま……


「また、明日………」

繋いだ手を解いて温かい毛布の中に戻す。

その優しさが、遊戯を苦しめてしまうことに……彼は、何時気付くのか。


「また、明日な………」



作り物の夢に全ての罪をなすりつけ、城之内は部屋を飛び出した。


遊戯の心の風邪は、夜が明けるたびに繰り返す。

夜が明けるたびに繰り返して、時を重ねるごとに、胸の傷みが増え続けるだけ。












おわり
___________

熱のせいで全部ぶっちゃけちゃう遊戯と親友思いの城之内くんの話でした。











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