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MONSTER HUNTER*anecdote
密林に響く竜撃砲
翌朝。旅の準備を整えたアリス達は竜姫にエースの看病を任せ、ドンドルマを出発した。
今回の旅は移住ではないため、荷物は各自必要最低限に纏めなければならない。よって、四人は狩猟用のアイテムと数日分の保存食を詰めたアイテムポーチと、各々の武器防具のみという身軽な格好である。

だが、それは彼らにとって何の問題にもならないだろう。いざとなれば現地で肉や野草、魚といった食料も調達できるし、薬草とキノコを調合して薬を作り出す事もできる。身一つで何処へでも行けてしまうのが、ハンターとして活動する者の強みであった。

アリスは加工を加えて更に強固になったレウスSシリーズ防具に大剣ブラッシュデイム。

ラビはすっかり馴染みのギルドガードスーツ蒼と、愛銃の老山龍砲・皇を。

ダイアナはポッケ村からやって来たまま、フルフルSシリーズにヒドゥンボウといった構成であった。

そしてヨモギはというと、先日討伐したラオシャンロンの素材の端材を頂戴して作ってもらった立派な甲冑・ネコ武者鎧を身に纏い、打ち出の小槌を摸した木製のハンマーを握り締めて一行の先頭を歩いている。肉球の紋がキラリと光る兜を被ったその表情と、新しい鎧を見せ付けるかの様に踏ん反り返っている後ろ姿は、なんとも誇らしげであった。

さて、ここからミナガルデへ向かうにはドンドルマ近隣に広がる密林地帯を抜けて、その先の小さな港町で船に乗り、ジォ・クルーク海を越える必要がある。
ジォ・クルーク海といえば、前回海竜ラギアクルスに襲われたあの場所だ。アリス達にとって良い思い出のある土地ではないが、この海を越えねば海岸線の陸地をぐるりと遠回りしなくてはならない。

海を越えてしまえば、そこから先はもうシュレイド地方である。西シュレイド南方に位置するミナガルデまでは、荷車で数週間程だろう。

まずは港町を目指して、密林地帯を進む四人。意気揚々と先頭を歩くヨモギの後ろにはラビが。そしてアリスとダイアナは肩を並べて、前を行く二人に続いていた。

「ふふっ、ドンドルマより西へ行くなんて初めてだから、わくわくしちゃうわね」

ダイアナは先程からずっと、この地方の地図を眺めて嬉しそうにしている。ポッケ村近郊から殆ど遠出しない彼女にとって、シュレイド地方は未知なる世界だ。

「ダイアナさんはポッケ村の守り人だもんね。あ、そういえばあの後。キリンに遭わずに済んだの?」

話をしているうちにアリスはふと、ダイアナと別れた日の事を思い出した。
あの日、雪山で発見されたブランゴ達の死骸。それらが雷に打たれて焼け焦げた状態であったが為に、幻とまで言われているモンスター・キリンが雪山に現れたのではないかと、アリス達は息を呑んだものだった。

「ええ、無事に村まで帰れたわ。その後、よく調べてみたのだけれど、結局キリンは見つからなかった。幻の存在だから、当然と言えば当然かしら?少し、残念な気もするわね」

「うーん、山の奥の方へ行ったのかな……」

「ごめんなさいね、心配させてしまって」

「ううん!無事だったならそれでいいの」

そう言って、アリスはダイアナへ向けてにこりと笑った。

その笑顔を見てほっと一安心したのは、ちらりと振り返って様子を伺っていたラビだった。ここのところずっと落ち込んでいた彼女を気にかけ心配していたが、新たな目的が出来た事でアリスは大分元気を取り戻した様である。昨日までと比べて、明らかに眼の輝きが違う。後はこれから行く先にジェナが居てくれれば、もう何も言う事は無いのだが。

とにかく、今はダイアナがやって来てくれた事に感謝だなと、ラビは心の中で呟いていた。

「ニャ?今、何か光ったニャ!」

ふと、先頭を歩いていたヨモギがピタリと足を止めた。
しかし、後ろをついて来ていたアリス達も足を止めて彼の視線の先を辿ったが、とくに光り輝く物は見つからなかったのだった。

「ヨモギ、何が光ったの?」

アリスはキョロキョロと辺りを見回してみたが、やはり変わった物などはない。この辺りは木々が密集していて視界は良好とは言えないが、彼女達は観察眼に優れたハンターだ。それでも三人が三人とも、ヨモギの見た物を見つけられずにいたのである。

「確かに光ったニャ。坂を降りたずっと先の方、ピカッと一瞬だけ光ったニャ」

そう言って、ヨモギは自分が見た光の方角を指差した。彼らの目前には緩やかな下り坂が続いており、ここから見下ろすその坂道の先には、密林の名に相応しい鬱蒼とした木々が広がっている。

アリス達がつぶさにその林の辺りを見つめたその時、木々の隙間からピカリとほんの数秒だけ明るい光が煌めいた。それはハンターが目眩ましに使用するアイテム、閃光玉に似た光だった。

そこで狩りをしているハンターが、閃光玉を投げたのだろうか。……いや、違う。その光が放たれる直前に、微かに聞こえたカンカンと固い物を打ち付ける様な音。それを耳にしていたアリス達は、瞬時にとあるモンスターを連想していた。

「ゲリョス……だよね」

「ゲリョスだな」

「ふふっ。そうね、ゲリョスだわ」

ほぼ同時に、三人のハンターがそのモンスターの名を口にする。一方でヨモギは「ほらニャ!」と得意げに跳びはねていた。

更に耳を澄ませば、ドン、ドンと、特徴のある爆発音が風に乗って聞こえてくる。これはハンターが使う武器の一つ、ガンランスの砲撃音だろう。どうやらこの坂の下で、ゲリョスとそれを狩ろうとするハンターが激しい戦闘を繰り広げている様だ。

「この音からして、ハンターはガンランス使い一人の様だな」

ラビはそう言いながらも、既に背中に担いだヘビィボウガンを組み広げて弾を装填し始めていた。そしてその隣では、ダイアナが矢の威力を向上させる強撃ビンを弓に取り付けている。
加勢に行くかどうかを相談するまでもなく、彼女達の心は決まっていたのであった。

ガンナー達の戦闘準備が整ったところで、アリスはゆっくりと深呼吸をしてから、眼下に広がる林を睨みつける。

「行こう!」

アリスのその一声を皮切りに、すっかりハンターの顔つきに変わった四人は、一斉に坂道を駆け降りて行った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


木々の合間をぬってひた走ると、目的のモンスターの姿が見えてきた。
鳥竜種モンスター・ゲリョス。口から毒液を撒き散らす事から、毒怪鳥とも呼ばれている。

木づちの様な珍しい形状のトサカや、先端が湾曲したクチバシ。黒みがかった群青色の外皮はゴム質であったりと、何かと異質なその外見が目を引く。だが、ゲリョスの奇抜さはそれだけではなかった。
先程から度々目撃されている閃光を始め、人間の所持品……特に鉱石や貴金属などの光り物を攻撃ついでに盗んだり、瀕死の際には死んだフリをしてやり過ごそうとしたり。とにかく、他の飛竜には見られないトリッキーな動きをこのモンスターはやってのけるのだ。

ゲリョスの知能は高いと言われている。しかし、性格はとても臆病で常にあちこちを走り回り、ひとところに留まる事は殆ど無い。疲れ知らずなその持久力は、体内を流れる狂走エキスという特殊な体液の効果であるという。

グァグァと奇怪な鳴き声を上げながら、ゲリョスは目の前に立つハンターに向けて、ついばむ様にクチバシを何度も振り下ろしていた。

竜の攻撃対象となっているハンターは、数種類の鉱石を精製して作られた、頑丈な防具を身に纏った男だった。金色の輝きを鈍く放つ、先の尖ったフルフェイス型の頭防具。それによりすっぽりと顔は覆われ、表情を窺い知る事は出来ない。膨らみを帯びた大きな分厚い装甲は、彼の全身を守っている。

男は右腕に装着した銀色の大盾を構えて、しっかりとゲリョスの攻撃を受け止めていた。だが、絶え間無く繰り出される激しい叩き付けに、彼はジリジリと押され始めていたのである。

左手に握り締める大盾と揃いのガンランスで反撃しようにも、今は一方的なゲリョスの攻撃を防ぐのに精一杯だ。防御姿勢を解いてしまえば、途端に一気に攻め込まれてしまうだろう。ゲリョスの攻撃が止むまで、ここはひたすら堪えるしかない。彼は必死で大盾に身を寄せていた。

そこへ駆け付けたアリス達は直ぐさま各々の武器を構え、今ここで繰り広げられている戦いに身を投じる。
ダイアナは弓の弦に矢をつがえたまま、ゲリョスとの距離を詰めた。そして風向きと角度、それに加えて矢が一番速度に乗る距離を計算して瞬時に答えを弾き出し、最も効果的な間合いで足を止めると一思いに矢を撃ち放った。

ビュンと空を切り、一直線にゲリョスへ向かって行った矢は、しなやかな筋肉のついた足を貫く。更にダイアナは矢筒から引き抜いた四本の矢を纏めて引き絞ると、一度にそれらを解き放った。
束になった矢は追い打ちをかけるように毒怪鳥の足へ突き刺さり、その衝撃でバランスを崩したゲリョスの身体はドスンと大地に倒れる。

それにより、ガンランスを構えた男ハンターは漸くモンスターの猛攻から解放された。彼は突然の出来事に目を丸くするばかりである。

「ハンター!?良かった、助かった!」

どうやら協力してくれるらしい同業者の姿を確認したその男は、反撃のチャンスが来たと喜び勇んだ。そしてこの機を逃すまいと、ゲリョスの胸に向けて颯爽とガンランスを突き立てる。

彼が手にしているのは、銀火竜と呼ばれているリオレウス希少種の輝く尾を元に作成された龍属性銃槍・ガンチャリオット。冷たい輝きを放つ高貴な銀の槍は、その切っ先からバリバリと黒い稲光を走らせた。

「たあっ!」

男はガンランスをゲリョスの胸に突き刺したまま、砲撃の引き金を引く。直後にドォン!と爆音が鳴り響き、ガンチャリオットの切っ先から放射状に爆発が巻き起こったのだった。

「どうだ!?」

黒煙と火薬の臭いが漂う中、男は確かな手応えを感じて毒怪鳥を睨みつけた。だが、ゲリョスは彼の攻撃をものともせずに立ち上がると、トサカとクチバシの先端をカツンカツンと打ち合わせ始めたのである。

ゲリョスの閃光は、こうして自らトサカの内部にある鉱物質の器官を破壊した際に発生する。逆に言えば、あのトサカを打ち付け始めたらその後に必ず閃光が起きるという事だ。

ガンランスを構えた男は先程から何度もこの予備動作を目撃していた為、その事はもう充分に理解していた。彼は自分の攻撃があまり効かなかった事に唇を噛み締めながらも、視覚を守ろうと直ぐに大盾の後ろに身を潜める。

カンッ!と一際大きく打ち合わせた音が鳴り、男は眼を閉じた。ゲリョスの行動が読めていないうちは、この閃光に目をやられて苦汁を嘗めさせられたものだったが、そう何度も喰らうものかと心の内に決めていたのだ。

グギャアアアッ!!

しかし、トサカを打ち鳴らした後に放たれるはずの閃光は無く、代わりにゲリョスの悲鳴が男の鼓膜を揺らした。一体何が起きたのかと驚きながら、男は目を見開いた。

見れば、ゲリョスの奇妙なトサカが割れて無くなっているではないか。えぐり取った様に残された弾痕からすると、おそらく根本を撃ち抜かれたのであろう。
そう、ゲリョスが閃光を放つ直前にトサカを撃ったのはラビである。正確に狙い定められた彼の一撃は見事に竜のトサカを破壊し、閃光を阻止して見せたのだった。

こうなればもう、目をやられる心配は無い。視覚さえ確保してしまえば、あとは奇抜な動きに翻弄されぬよう注意するだけである。

「はぁぁあっ!」

痛みに悶えるゲリョスへ、畳み掛けるようにアリスは大剣を振り下ろしていく。弾力性のあるゴム質の皮で守られた毒怪鳥の身体。その中でも比較的斬撃の通りやすい尻尾を重点的に攻めれば、ゲリョスはいとも簡単に悲鳴を上げた。

続いてヨモギも果敢に毒怪鳥へ駆け寄ると、小槌型ハンマーでトサカの無くなった頭を叩きつける。そしてぴょんぴょんと素早く動き回りながら、ゲリョスを逆に翻弄してみせたのだ。

四方をハンターに囲まれ、次から次へとその身に攻撃を受け続けるゲリョス。少々パニック状態に陥りながらも、毒液を吐き、伸縮する尾を振り回して抵抗を試みた。だがそれもガンナー達には遠く及ばず、接近している剣士達にはしっかりとガードされてしまったのだった。

「次、麻痺が入るわ!」

弓に装着した強撃ビンを麻痺ビンに付け替えていたダイアナは、矢を引き絞りながら仲間達に向かってそう叫んだ。
そして「了解」と頷くアリス達の間をヒュンと突き抜けた矢は、ゲリョスの首にブスリと突き刺さる。矢尻から滲み出した麻痺液が、竜の体内を蝕んでいった。

すでに一定量の麻痺毒をその身体に蓄積させられていたゲリョスは、直ぐに痺れに拘束され、身動きを封じられた。今こそ攻撃を叩き込み、とどめを刺す好機である。

ゲリョスの弱点は火属性。ラビは老山龍砲・皇に火炎弾を最大数まで装填し、撃ち込んではリロードを繰り返す。そしてアリスは目一杯溜めた力を一気に解放し、全てを断ち切る強烈な一撃をゲリョスにお見舞いしてやった。

ヨモギはその隙を見計らって、腰にぶら下げていた回復笛を吹き鳴らす。ガンランスを構えたハンターが今までに受けていたダメージを、少しでも回復しておこうと判断したのだった。
ホロホロと鳴り響く不思議な音色。それを耳にした男ハンターの、身体の痛みが徐々に和らいでいく。彼は兜の下で「ありがとう」と呟くと、しっかりとガンランスを構え直した。

「竜撃砲を撃ちます!下がってください!」

男ハンターが叫んだ言葉を聞き入れて、アリスは慌てて大剣を担ぎ直し、ゲリョスから充分に距離を取った。竜撃砲の大爆発に巻き込まれてしまっては一大事である。

彼女が遠ざかった事を確認してから、男ハンターは竜撃砲を起動させた。ガンチャリオットの先端からは、ゴオオオと炎が噴き上がり始めている。
彼は竜撃砲の反動に備えてぐっと腰を落とし、熱が篭っていく銃身を体で感じながら、ゲリョスに狙いを定めていた。

「ハァッ!!」

ドォォォンッ!!!
ガンランスの切っ先から、激しい勢いで放たれた砲撃。深紅の炎が舞い上がり、辺りを高熱で染めて行く。
ギルドの武器工房が長年の研究の末に開発した、最高峰の技術の結晶とまで言われているガンランスの竜撃砲。さすがにその威力は目を見張る素晴らしさだ。直撃を受けたゲリョスの体からは、鼻をつく黒煙がシュウシュウと立ち上っていた。

身を焼かれ、白目を剥いたゲリョスはフラフラと覚束ない足取りでよろめくと、意識を失ってその場に崩れ落ちた。だが、これはお得意の死んだフリで、自分達の油断を誘って反撃に出る気なのかもしれない。

用心したダイアナは、数本の矢をゲリョスの身体に撃ち込んで生死を確認してみた。矢が深く突き刺さっても、毒怪鳥はぴくりとも動かない。どうやら死んだフリではなく、本当に絶命した様である。

「ふぅ、討伐完了だね。お疲れ様!」

「ニャ!」

アリスは足元に居たヨモギと、勝利を喜び合うようにハイタッチを交わした。

「お疲れ様でした。うふふ、やっぱりガンランスの竜撃砲は派手ねぇ。見ていて気持ちがいいわ」

ダイアナは弓に装着していたビンをアイテムポーチに仕舞いながら、実に楽しそうにニコニコと笑っていた。久しぶりの多人数での狩猟に、少し興奮気味の様子である。

「……でも、撃った本人は大変そうですよ」

そう言いながらヘビィボウガンを折り畳むラビは、竜撃砲を撃ち終えたばかりの男ハンターを見て肩を竦めた。
彼は木の根本にすっかり尻餅をつき、ガンランスを持つ左腕を押さえながら「イタタ……」と唸っていたのである。どうやら竜撃砲の凄まじい反動に耐え切れず、吹き飛ばされてしまった様だ。

「ち、ちょっと、大丈夫?」

アリスが声をかけると、男は困った様に「あはは」と笑う。

「大丈夫です。すみません、まだガンランスは扱い慣れてなくて」

男は地面に座り込んだまま、頭をすっぽりと覆う鉱石製の兜を脱いだ。そして汗ばんだ頬に張り付く栗色の髪を、振り払う様に頭を左右に振る。今まで兜に隠されていた素顔が、やっとアリス達に向けられたのだった。

「加勢していただき感謝します。おかげで助かりました」

ニコリと微笑みながら礼を述べた男は、次の瞬間にきょとんと目を丸くしていた。なぜなら、彼の素顔を見たアリス達が皆一様にぽかんと口を開けたまま、固まっていたのだ。

「あの、どうかしましたか?」

不思議そうに首を傾げる男に向かって、アリスは叫んだ。

「こ……子供ーーーっ!?」

そう。兜の下から現れたのは、男と呼ぶにはまだまだ早い……あどけなさの残る少年だったのである。

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