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MONSTER HUNTER*anecdote
愛惜の砦
遥か昔、どこからともなく巨大な龍が現れた。

その龍は木々を薙ぎ倒し、大地を踏み固め、人々の住む村を破壊してもなお歩みを止めず、ただひたすら大陸を移動していた。

間もなく龍は荘厳な山の彼方へ姿を消しだが、進行により荒れ果てた地には、何も残らなかったのである。
大蛇の様にうねる一本の道が、その壮絶さを物語っていた。

天災と大差ない惨状。なんとか逃げおおせた人々は、命ある事を喜んだ。そして亡くなった者や失った家を想って歎き悲しみ、己の無力さを知った。巨大龍の前では、人間の小さな抵抗など無意味なのだと。人々は慣れ親しんだ土地を離れる決意を固めたのだった。

しかし、龍に負けてたまるかと立ち上がった一人の男がいた。産まれ育ったこの地を捨てて逃げる事などできないと、人々に訴えかけたのだ。

男は自分の村の跡地に砦を作り始める。近隣の村や街に被害が及ばぬよう、老山龍を誘い込んで撃退するための誘導路として。それが失った家族や友への餞(はなむけ)であり、自分達の故郷を守る事に繋がるのだと考えたのだ。

巨大龍の動きを制限する為、通路にはわざと曲がり角を作った。そして岩山を削り、通路の左右を高い崖で挟む。砦は破壊されぬよう切り出した頑丈な石を積み重ね、粘土質の石灰で何度も何度も塗り固める。

「どうせまた踏み潰されるに決まっている」と、人々は彼を笑った。けれど男は、砦の建築をやめなかった。

くる日もくる日も、男はせっせと石を積み上げた。雨風にさらされて壁か崩れても、飛竜が吐いた炎に燃やされても、より強固な砦にするのだと悔しさをバネにして。

ひたむきな男の姿はやがて、それを見ていた人々の心を動かす。一人、また一人と協力者が現れ、男と共に作業にあたったのだ。
彼らの活動は近隣の街まで伝わり、ハンターズギルドが総力を上げて支援する事を決めていた。波に乗りだした砦の建設は、瞬く間に完成を迎えたのだった。

だが、第一人者である男は完成した砦を見る事も無くこの世を去った。一日も休まず働き続けた彼は過労により、志半ばでその生涯を終えてしまったのだ。人々は彼の偉業を讃え、敬いながら男が愛したこの地に眠らせてやった。

ハンターズギルドは彼の後釜に就き、巨大龍に対抗する兵器を砦に設置する。大砲、バリスタと呼ばれる機械式大型弩砲、そして龍の体を貫く巨大な機械槍・通称撃龍槍が砦の門に組み込まれた。

以来、この砦は巨大龍の進行時にハンター達の拠点として使用され、幾度も激闘が繰り広げられている。
この砦が突破されれば、巨大龍の進む方角によってその先にあるミナガルデやドンドルマといった大都市は壊滅的な被害を受けてしまうだろう。ハンター達にとってここを死守する事は、自分達の街を守る事と等しかった。

愛する地と、そこに住む人々を守りたいという男の意志は、ハンター達にしっかりと引き継がれていたのだった。



「着いた……」

大老殿にてラオシャンロン討伐作戦の参加許可を得たアリスとラビは、ギルドが用意した緊急搬送用アイルー荷車に乗って砦までやって来た。
いざ現地に立ってみると、冷たく吹きすさぶ風と張り詰めた空気に、きゅうと心が締め付けられる。アリスは自身の胸に手を当てながら、大丈夫、大丈夫と、何度も自分に言い聞かせていた。

――いよいよ、始まるんだ。この日の為にハンターになったんだから。恐れる事なんて、何も無い……。

アリスは眼を閉じてゆっくりと息を吸い、またゆっくりと吐き出す。
そして隣に立つラビの「いけるか?」という問い掛けるに、しっかりと頷いた。

「まずは砦内の拠点へ行こう。そこで今回の討伐作戦の指揮官に会うんだ」

「分かった」

二人が高くそびえる砦の門をくぐろうとした時、遥か後方から「おーい!」と呼ぶ声が聞こえた。
振り返った先には、こちらに近づいて来る人影が二つ。それは、いつもの様にフルフルS防具一式を着込み、神秘的に輝く龍属性双剣・封龍剣【超絶一門】を携えたエースと、ぴょこぴょこと跳ねるように駆けて来るヨモギの姿だった。

「ヨモギ!エース!」

「アリスー!ただいまニャ!」

ヨモギは二人の近くまで来ると、ぴょんとアリスの胸に飛び込んだ。アリスはしっかりとそれを受け止め、ゴロゴロと喉を鳴らす彼の額を撫でる。

「ラオの野郎、とうとう来やがったな。ったく、ドンドルマに帰るなり召集されて、休む暇も無かったぜ」

エースはそう悪たれると、風に吹かれて乱れた髪を直していた。

「エース、姫は一緒じゃないのか?」

「あー……今朝まで一緒だったんだがな。ジャンボ村に用があるとかで行っちまったよ。散々レイア狩りに付き合わせといて、本当に勝手だよな」

「そっか……。姫さんが居てくれたら心強いんだけど、仕方ないよね」

残念がるアリスとラビをよそに、「俺は竜姫が居たら生きた心地がしないけどな」と、エースは心の中で独りごちた。

「ラオ、か……」

エースは額の汗を拭いながら、目前にそびえ立つ砦を見上げる。前回の老山龍討伐作戦に興味本位で参加した時、二度とここには来るものかと思っていたのに。
何故だろう。今、同じ場所に立っている自分が居た。

「面倒くせぇなぁ……」

はぁーーと長い溜息をついた彼の口から、いつもの口癖がポロリと零れた。それを聞いたアリス達は、揃ってクスッと吹き出したのだった。

「ふふふ。面倒と言いつつも、ちゃんと来てくれるエース君なのでした」

「本心ではそう思っていないんだろ?な?」

「ニャ!エースはネコタクに乗っている時、間に合わニャかったらどうしようって焦っていたニャー!」

「あっ、こらヨモギてめぇ!」

ヨモギの首根っこを掴もうと手を伸ばしたエースは、ニヤニヤと笑う仲間達の視線に気付いてピタリと動きを止めた。ムズムズと背中がこそばゆくなって、頬が赤く染まっていくのが自分でも分かる。

「〜〜〜っ!馬鹿な事言ってんじゃねぇ!さっさと行くぞ!」

エースはぷいと顔を背け、一人で先に門をくぐり、砦の中へ入って行ってしまった。

素直じゃないねと、その後ろ姿を見つめながらアリス達はひとしきり笑い合う。その後に、「さあ行こう」と彼を追って、砦内部の拠点へと向かったのだった。

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