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MONSTER HUNTER*anecdote
英雄の証
厳しい寒さを乗り越えた大地は豊かに実り、晴れ渡った空に竜が舞う。

新しい季節は、芽吹いたばかりの生命に満ち溢れている。穏やかな繁殖期。一年のうちで、世界が一番美しく彩られていた。

暖かな日差しに新緑が映える辺境の村・ココット。この村に一人の少女がやって来たのは、ちょうど一年前の事である。

火竜リオレウスの驚異に抗う為に、ミナガルデのギルドに要請した腕利きのハンター……ではなく。先方の手違いによって派遣されてきた、新米ハンターだった。

妙に自信家で、気が強くて、おまけに口が悪い。元気だけが取り柄のようなその少女。どこを取っても、不安要素しか無いように思われた。

だが、少女は己の弱さを思い知り、自分を見つめ直す事で成長を遂げた。そしてついには村人達の心配をよそに、見事火竜を討伐してみせたのである。

村長は、少女に可能性を見出だしていた。彼女はきっと、これからの時代を担うハンターの一人になると。

少女は自分の目的を果たす為に旅立って行った。風の噂で、彼女は老山龍を討伐したあと、伝説の黒龍まで狩猟したと聞いている。まさかここまでになるとは思わなかったが、それが嬉しい知らせである事に変わりはない。

自分の目は節穴ではなかったと、村長は満足げにひとりごちた。

村長を始めとしたココットの村人達は、目的を果たした少女がまたこの地に帰って来る日を、静かに待ち続けていたのだった。


そんな、ある日。


「またか……」

しかめっ面の村長が燻らせたキセルの煙に、ギルドの受付嬢は鼻を摘む。

彼らの頭を悩ませているものは、今朝、周辺の丘を散歩していた村人から得た飛竜の目撃情報だった。

「火竜リオレウス……。どうもこの時期になると荒ぶりよるのぉ……」

「ま、繁殖期ですからね〜。いろんな生き物が、自分の子供を守ろうと必死なんですよ。素晴らしき親の愛、ですね!」

ニコニコと話す受付嬢には、相変わらず危機感というものが感じられない。それが余計に村長をやきもきさせてしまうのだが、本人に自覚が無いから困ったものだ。

「今度の奴は、かなり大きな個体だと言う話じゃ。おそらくキングサイズ……いや、下手をすればG級クラスかもしれん。となると、討伐できるハンターは街にもそうそうおらぬぞ」

「そもそも、ココット村にハンターさんが居ませんしねぇ」

それも、悩みの種の一つであった。

旅立った少女の後釜としてやって来た男のハンターは、数日前に突然「故郷に戻る」と言って一方的に去って行ってしまったのである。ミナガルデのギルドに問い合わせても、彼は街には居ないという事だった。どうやらそのハンターの故郷とやらは、遠く離れた地にあるらしい。

よって、現在のココット村にはお抱えのハンターが居ないのだ。新しいハンターを迎えるべきか、もうじき帰ってくるであろう少女を待つべきか。村中で話し合っていた最中に、空の王者の登場である。

「ぬぅ……かくなる上は、ココットの英雄と呼ばれたこのワシが、再び剣を取るしかあるまい……」

「えー、無茶言わないで下さいよ!村長さんはもうヨボヨボお爺ちゃんなんですから。リオレウスに捕食されるのがオチですよ!あ、でもしわしわで食べるお肉が無いか……」

「おぬし、それは言い過ぎじゃろ」

はぁ、と村長の口から大きな溜息がこぼれる。

こんな事になるのなら、さっさと新しいハンターを要請しておくべきだった。
と、村長が後悔をぼやき始めたその時である。

「全く、相変わらず浮かない顔してるわね。何か困り事?」

ふと、背後から少女の元気な声が響いた。

ああ、そういえば。

一年前のあの日も、彼女は今日みたいな明るい太陽の下に現れて。青空のような瞳と、短い金の髪を輝かせながら、自信たっぷりに笑っていたものだった。

「アリス……!」

村長が名を呼びながら振り返った先には、やはりニコニコと微笑む少女が立っていた。その足元には、同じく満面の笑みを湛えた一匹のアイルーが。そして少女の一歩後ろに、礼儀正しく会釈をする女ハンターの姿があった。村長には、すぐにそれが少女の探し人だと分かっていた。

だが……一緒に出て行ったはずの男の姿が無い。そこで村長は、彼女達が村を出る時に、こっそりと彼だけに告げた言葉を思い出したのだった。

『人の道に付き添うがあまり、自分の道を忘れてしまわぬようにな』

それに対して彼は一言だけ、『分かっています』と答えていた。きっと、今頃は彼自身の道を進んでいるのだろう。

要らぬ心配だったろうか?何はともあれ、若きハンター達はそれぞれの進むべき道を歩んでいるようだ。
……これで良い。同じ職を隠居した身にとって、これ以上に喜ばしい事は無かった。

「ただいま!」

「帰ってきたか……。ハンター達よ、おかえり」

村長はフフと笑うと、ちょうど悩みの種として抱えていた一枚の紙をアリスに差し出す。

依頼書だ。
場所は森丘、相手は火竜リオレウス。依頼主の欄にはココット村の村長の名前が記入されていた。

「ココット村のハンター殿。着任早々で悪いんじゃが、狩猟依頼じゃ。行ってもらえるかの?」

アリスは受け取った依頼書をじっと見つめている。それから仲間達と交互に目を見合わせて、頷いた。

「任せておいてよ。こんなの私達にかかれば、楽勝だって!」

「またそんな大口を叩きよって……。本当に……変わっとらんな」

やれやれと村長は頭を振ったた。だが、口元を飾る笑みは嬉しさを隠しきれていない。もちろんアリスも、それに気付いていた。

「よーし、ヨモギ!ジェナ!早速出発しよう!」

「ニャー!」

「ああ、行こう!」

ハンター達の瞳に宿る、確かな自信と揺るぎない意志。

生命が続く限り、物語は終わらない。

たとえ歴史に名を刻まなくても、彼女達の歩んだ道を知る者がいる。

その存在が、英雄の証となるだろう。


ひとりひとりが紡ぐストーリー。

これは、人の数だけ存在する、
この世界の逸話の一つに過ぎないのだ。


MONSTER HUNTER*anecdote

END.

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あきゅろす。
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