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MONSTER HUNTER*anecdote
古塔調査
観測隊の気球に乗り、ドンドルマを離れること数時間。一行は、目的地である古塔の建つ僻地へとやって来た。
太古の文明が栄えた跡地には、朽ち果てた遺跡群がそこら中に残されている。その壁面には蔦が這い、石畳の脇には青々とした草木が生い茂っていた。
それはまるで、植物達が過去の都を再び自然に返そうとしているようである。

川沿いの道を上り、広い石庭を抜けた先。崇高なる古びた塔が、天高くそびえ立っていた。
誰が、何の為に建てたものなのか。いつの時代の産物なのか。それは、未だ解明されぬ謎であった。

「順に調査しながら塔を上って行こう。足元に気をつけて」

ディランは採掘用のピッケルを肩にかけ、両腕に資料やノートを抱えて準備万端といったところである。
アリスとラビは彼を挟んで前後に並び、いつモンスターが現れても対応できるよう注意を払った。

塔の内部に足を踏み入れると、入口部の狭い部屋は足首まで浸水していた。ぼんやりと発光しながら、辺りを飛び回る無数の雷光虫。三人はそれを避けながら、薄暗い通路を慎重に突き進む。

通路を抜け、どんどん先に進むと塔の外周にあたるフロアに出る。だがそこは、ギアノスと呼ばれる白鱗の小型モンスターが群れを成して巣くっていたのであった。

「こんなに沢山のギアノスが居るとは……。参ったな、そこの壁面を少し掘って行きたいんだが」

ギャアギャアと鳴きながら、侵入者達を威嚇するギアノス。ディランは頭を掻きながら、うーんと唸る。

「こういう時の為にハンターが居るんでしょ?私に任せて!」

アリスは自信たっぷりに言い放つと、今こそ自分の出番であると自ら一歩前に踏み出したのだった。

「よし、追い払っておくか」

ラビはヘビィボウガンに弾を装填し、身構える。しかしその直後、その腕を掴んで引き止めたアリスが首を横に振っていた。

「ラビはディランさんの護衛、兼・調査の助手。ギアノスくらい私一人で始末できるから。ね?」

その言葉は、自分を気遣ってくれての事だとすぐに分かる。ならばここは彼女の厚意に甘えておこうと、ラビは素直にボウガンを仕舞った。

「……そうだな。じゃあ、君に頼むよ。くれぐれも無茶はしないようにな」

「ふふふっ、大丈夫!ここは海じゃないから、溺れる心配も無いしね!」

ジォ・クルーク海での事を匂わせて、アリスは悪戯に笑みを浮かべる。それを聞いて、ディランは「まったくだ!」と豪快に笑っていた。

「さて、あんた達。調査の邪魔は許さないからねっ!」

アリスは背負う剣の柄をぎゅっと握り締め、鳴き喚くギアノス達を見据える。
鍛え治した大剣の切れ味と、新調した防具の動き易さは如何なものだろうか。勇み立つ気持ちが抑え切れず、アリスはモンスターの群れに飛び込んで行くのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


幾つにも分かれたエリアを移動しながら、三人の古塔調査は続く。
塔の内部にはギアノス以外にも、蛇に似た体に翼と足が生えた龍・ガブラスが多数棲息していた。しかし、アリスがモンスターの掃討を上手く成し遂げた甲斐もあり、ディラン達の調査は順調に進んでいったのである。

太陽が沈み始める頃には下層部の調査が全て終わり、残すは最上階のみとなった。
塔の中層は、筒状になった螺旋階段だ。壁に沿うようにして造られた石段は所々が朽ちかけており、状態が良いとは言い難い。三人はより足場に気を付けながら、上層部を目指していた。

「……何の音だ」

ふいに、ラビがピタリと立ち止まる。険しい顔付きで辺りを見回す彼に続き、アリスとディランも耳を澄ませた。

微かだが、何かが蠢く音がする。そしてそれは嫌な気配と共に、こちらに接近している様であった。

「何か来るね……。それも、凄くヤバそうな奴が」

身構えたアリスの額を、自然と冷や汗が伝う。

「そんなまさか!大型モンスターの目撃情報は、ギルドには入っていなかったぞ!?」

「ええ、俺も確認しました。だがこの気配は、間違いなく古龍種のモンスターです」

ただならぬ空気にディランは青ざめる。この地に現れる古龍の恐ろしさを、調査員の彼は充分過ぎるほど知っていたのだ。

ラビもまた、今の状況の悪さを痛感していた。古龍と遭遇するなど想定していなかった為、必要最低限の弾とアイテムしか所持していなかったのだ。
隣にいるアリスも、小型モンスターとの戦闘で大分疲労している。このまま戦闘に入れば、確実に不利だ。ディランを守りきれるかどうか……いや、全滅の可能性だって有り得るだろう。

「退きましょう。龍に見つかる前に、塔を降りるんだ!」

ラビの判断に二人は同意すると、すぐに踵を返して螺旋階段を駆け降り始めた。

だが、姿を現した嫌な気配の主は、ハンター達の逃走を許さなかった。
塔の底から、ゆっくりと浮上して来たもの。それは、表面に草や苔が生えた身体から、長い触手を何本も垂らした巨大な生物。浮岳龍と呼ばれる古龍種のモンスター・ヤマツカミであった。

脱出を試みる三人の姿を捉えたヤマツカミは、蛸の足の如くうねる幾つもの触手を振るい、アリス達の行く手を阻む。
拳のように振り上げては叩き付け、鞭のようにしならせて薙ぎ払う。その動きは決して機敏ではなかったが、直撃を受けた石畳が砕け散る程の破壊力を持っていた。

「あれは何!?あんなデカイ奴、見たことない!」

ヤマツカミの攻撃を避けながら、アリスは二人に問い掛ける。これまでに数々のモンスターに関する文献を、ラビから借りて読んできた。だがそのどれにも、あの巨大で異様な姿をした生物は掲載されていなかったのである。

「あれはヤマツカミだ!見ての通りの岳の様な姿から、浮岳龍と呼ばれているモンスターだよ。我々、古生物書士隊の中でも遭遇した隊員は数少ない。運良く出会えても生きて帰る事が出来なかったりで、まだまだ調査不足のモンスターなんだ!」

ディランは走り降りながらも、時折振り返っては現れた龍の姿を目に焼き付けるようにしていた。少しでも詳細な生態情報を持ち帰らなければという彼の調査員根性が、恐怖心をはるかに上回っているようだった。

「ヤマツカミの話は師匠から聞いた事があります。人を吸い込み、ひと飲みにしてしまうとか……」

「ひ、人を吸い込む!?」

ラビの話を聞いて、アリスはぶるると身震いする。先程、ヤマツカミの触手の間にちらりと大きな口が見えたが……あんなものに丸飲みにされるなんて、まっぴら御免である。

と、その時。ゴオオオと奇声を上げながら、ヤマツカミが大きな口を目一杯に広げて動きを止めた。何が起きるのかと警戒した三人が足を止めて振り返ると、ヤマツカミの口からふわふわと浮かぶ雷光虫の群れが、次々と吐き出されていたのであった。

光輝く雷光虫の群れは大雷光虫と呼ばれ、人を襲う危険な昆虫として知られている。それが5つ、6つ程も空中に解き放たれて辺りを漂い始め、この戦う事もままならぬ悪状況に拍車をかけたのだった。

ヤマツカミの触手を避けた先に、大雷光虫の群れが。
大雷光虫に気を取られていると、ヤマツカミの触手が。
ずっと逃げる事に専念していた三人は、なかなか思うように動けなくなってしまった。

「あーもうっ!鬱陶しい虫!」

足を止めて振り返ったアリスは、その背に担いだ大剣を身構えた。纏わり付く様に周囲を飛び回る大雷光虫を、一つ残らず蹴散らしてしまおうと思ったのだ。
あと数十メートル程先に、螺旋階段の出口は見えている。邪魔な大雷光虫さえ始末してしまえば、動きの遅いヤマツカミからは逃げ切る事が出来るはずである。

自身に向かって来る大雷光虫を長い刀身で薙ぎ払い、叩き潰す様に振り下ろす。いかに大雷光虫が危険であるとは言えども、虫は虫。軟弱な羽虫達はあっという間に絶命し、ハラハラと地に落ちていった。

「よしっ、これで気を取られる事は―――」

「アリス!後ろだっ!」

ラビの大声に反応して振り返ったアリスの目前には、赤く発光した大雷光虫が迫っていた。そしてそれは不気味にチカチカと点滅を繰り返すと、アリスが剣を構え直すよりも早く、ドンッ!と音を立てて爆発したのである。

「うわあっ!!」

痛みと熱が、全身を突き抜ける。
爆風を受けたアリスの体はごろごろと石段を転がり、壁に激突して漸く止まった。

「痛ったぁ……爆発するなんて……」

アリスは体を起こし、地に突き刺した大剣を支えに立ち上がる。堅固な火竜の鎧に守られて、ダメージは少々の火傷で済んだ様だった。
しかし次の瞬間。正面におぞましい気配を感じ取り、アリスはハッと顔を上げる。すると、苔の隙間から覗く小さな二つの紅い目が、真っすぐに彼女を睨みつけていた。

「あ……」

アリスの体から、サアッと血の気が引いていく。目の前に浮遊するヤマツカミの標的は、間違いなく自分である。
ヤマツカミの大きな口が開き、奇怪にうねる舌や、岩のような歯が羅列しているさまが見てとれた。

「人を吸い込み、ひと飲みにしてしまう」……先程のラビの言葉が頭を過ぎる。
早くこの場から逃げなくてはいけない。そう頭では分かっていても、死を意識した身体は強張り、アリスは大剣の柄を握り締めたまま動けなくなってしまったのだった。

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