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MONSTER HUNTER*anecdote
出発!
ギルドの役人とはいっても、アリスと変わらぬ年齢の少女。話を聞いた受付嬢は、三編みにした茶色の長い髪を指でくるくる絡め取りながら、問題の依頼書とにらめっこしている。

「う〜ん。おかしいですねー……」

彼女は間延びした声を上げながら、首を傾けて唸るばかりだ。緊張感のかけらもないその様子に、村長の苛立ちは募る。

「私、確かにリオレウス狩猟依頼でハンター要請を出しましたよー?だから依頼書も、こうやってあるじゃないですか」

「じゃあ何故、ブルファンゴの討伐と勘違いした、こんな新米ハンターが派遣されて来たんじゃ!」

村長は受付嬢に詰め寄ると、早口でまくし立て始めた。

「待ちに待ったハンターが到着したのに、とんだ期待外れじゃわい!さっさと他のハンターに変えてもらう手続きをするんじゃ。新米など要らぬ!」

それまで黙って二人のやり取りを見ていたアリスも、今の言葉にはさすがに気を悪くしたようだ。眉間に皺を寄せ、二人の間に割って入る。

「ちょっと!その言い方は酷いんじゃない!?こんな田舎の村まで遠路遥々やって来たっていうのに。迷惑なのはこっちよ!」

「小型モンスターしか狩った事の無い奴が、偉そうにするんじゃないわい!」

「手違いは私のせいじゃないもん!」

言い争う村長とアリスは互いに睨み合い、火花を散らす。集まってきた村人達も、一体どうなってしまうんだと口々に不安を漏らしていた。

「ギルドに問い合わせたい所ですけど……。実は今、海竜が暴れていて船が出せないみたいなんですよね!つまり、街への連絡手段が閉ざされちゃってるんです!」

ギルドの受付嬢は事態の深刻さを理解していないのか、能天気にあははと笑っているだけだった。

「なんじゃと?では……」

「はい!ハンターさんの交代は只今出来ません!」

「……………」

突き付けられた事実に、村長は絶句してしまった。このままでは、リオレウスに襲われてこの村が滅ぶのも時間の問題か。もはや絶望しか感じない。

魂が抜けたような村長の顔。それを見ていたアリスは、ぽつりと呟いた。

「……そんなに落ち込まないでよ。倒せばいいんでしょ?リオレウス」

その言葉を聞いて、村長ははっと目を見開く。

「私だって、ハンターなんだからね!やってやるわよ、任せなさい!」

アリスは握り締めた拳を堂々と村長に突き付けて、にっと笑った。
飛竜と対峙した事も無いくせに、その余裕はどこから来るのか。村長は不思議でしかたがなかった。

「そんな簡単な問題では……」

村長の顔から不安の色が消えないのは、彼自身が火竜リオレウスの強さを充分知り得ていたからこそだった。狩猟に挑み、命を落としてしまったハンターは数多い。王者の名は伊達ではないのだ。

しかし、アリスはそんな村長の心配もどこ吹く風といった様子で、自信満々な笑みを浮かべている。

「でも、私がやるしかないんでしょ?大丈夫!これでも結構訓練してきてるの。リオレウスだろうと何だろうと、私の敵じゃないって!」

「さすがハンターさん、格好良いです!」

そこでギルドの看板娘が大きく手を叩き、アリスの主張を盛り上げる。……この娘ら二人、似た者同士かもしれない。アリスと受付嬢は意気投合でもしたのか、黄色い声を上げて騒ぎ始めていた。

だが、村長を筆頭に、村の者たちは安心など全くできていなかった。絶対に任せてなんていられない。何とかしなくてはと、必死で策を巡らせる。

「よし!じゃあ早速何か狩りに行こうかな。ジジィ、依頼書ちょうだい!」

「ジジィじゃと!?村長と呼べ!」

全く最近の若いもんは……とぶつぶつ文句を言いつつも、村長はギルドカウンターの傍にあるクエストボードを見遣った。そこには少ないながらも、様々な依頼書が貼られている。

それらにざっと目を通していた村長は、何を思いついたかニヤリと笑った。そして依頼書を数枚もぎ取り、アリスの方を向き直る。その表情は、先程までとは打って変わって穏やかだ。

「ハンター殿は今日ここに来たばかりじゃからな。まずはこの辺りの地形になれてもらう為に、肩慣らしのクエストでもやってもらおうかの」

「ん、ありがと!」

アリスは差し出された依頼書をまとめて引ったくると、内容もろくに確認せずに適当に掴んだ一枚をカウンターに叩きつけた。

「はい。これ行ってくるから、よろしく!」

「了解しました!行ってらっしゃーい!」

受付嬢は依頼書にどんっと勢い良く判を押す。駐留するハンターが居ないこの村では、クエストの受注手続きなど久しぶりの事である。

意気揚々と村の外に走り去っていくアリス。それを元気いっぱいに手を振って見送ったのは、受付嬢だけだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


それから数分後。村から少し離れた森の中で、アリスは草の根を掻き分けて何かを探していた。そして湿った地面に生えている『それ』を発見すると、思わず歓喜の声をあげる。

「あ、あったー!……って、何で私がこんな事やらなきゃいけないの……」

アリスが受けた依頼は、特産キノコと呼ばれる希少なキノコを5本集めて納品するというものだった。果てしなく地味で、骨の折れる作業。小型モンスターの討伐でもさせてもらえると思っていたアリスの苛立ちは、最高潮に達する。

「キノコ狩りなんて、ハンターじゃなくても出来るじゃん……。あのジジィ、覚えてなさいよーっ!」

アリスの怒号が森丘中にこだまし、草食竜は飛竜が襲来した時と同じように慌てて逃げて行くのであった。

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あきゅろす。
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