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MONSTER HUNTER*anecdote
雨空に集う
突然訪れた仲間との再会を喜ぶ間もなく、ラビとクシャルダオラの一騎打ちが始まった。

嵐の中、銃声と龍の唸り声が入り混じる。それにしても、なぜラビがここに居るのか。アリス達は近くの茂みに身を隠して彼を見守りながら、不思議に思っていた。

地を蹴り、ラビに向かって一直線に駆け出すクシャルダオラ。その素早い突進をラビはさっと身を翻して避けると、すかさず龍の体に毒弾を放つ。ボウガンの弾は風の鎧を貫通し、鋼の鱗に突き刺さると、じわりとその体内に毒素を染み込ませていった。

龍の大きな身体全体に毒を巡らせるには、一発や二発の毒弾では足りない。複数発撃ち込み、毒素を蓄積させる必要がある。その為にラビは激しさを増す雨の中、クシャルダオラの突進を避けては慎重に銃撃を重ねた。

着弾の度に身体の内部を侵していく毒が神経を麻痺させ、徐々に龍の動きを鈍らせる。先程よりも、突進のスピードは目に見えて落ちていた。

――そろそろだな。

ラビは次の毒弾を装填し、再び照準を龍に合わせる。そして茂みの中に身を潜めたアリス達に向かって、声を張り上げた。

「じきに毒が回る!あいつの纏う風が消えたら、攻撃してくれ!」

与えられた指示を確かに聞き届けた二人は、「了解」と頷き次の一撃を待つ。
だが、クシャルダオラは自身の体を蝕む異変に危機感を募らせたのか、後ろ脚で地を蹴って、空へと飛び上がったのである。

逃げる!!
アリスとエースは、同時に心の中で叫んでいた。
しかしそこへ、逃がすものかと容赦無くラビの毒弾が放たれる。龍の胸にズブリと減り込んだその弾は、強い毒素をクシャルダオラの体内に吐き出したのだった。

ぐらりと龍の身体が揺れ、糸の切れた操り人形の様に力無く地面に墜ちる。地響きと共に横たわった龍は、体を巡る毒に平衡感覚を蝕まれ、上手く立ち上がれずにもがき苦しんでいた。

「風の鎧が消えた!エース、行こう!」

「おう!」

今がチャンスだと二人は茂みから飛び出し、クシャルダオラに向かって颯と翔けて行く。
走りながら背にした双剣を抜き取り、両手に構えたエースは迷わず龍の頭を狙った。モンスター達の持つ体内の浄化器官は、強力な毒さえも中和してしまう。この毒が効いているうちに角を破壊しなければ、また風の鎧が発生してしまうのだ。

「でやあぁぁあっ!」

ラビの功績を無駄にしてたまるものか。エースは何度も何度も双剣を振るい、堅固な龍の角を斬る。その度に舞う角の破片と共に、耳障りな金属音が雨空に響いた。

――チッ、すぐに切れ味が落ちちまう。

さすが鋼龍と呼ばれるだけはある。これ以上攻撃すると、双剣の刃は朽ちてしまいそうだった。
それでも、角に充分なダメージを与える事は出来たはず。エースは手を止め、背後に控えたアリスに声をかける。

「おい!いけるかっ!?」

「もちろん……!」

腰を落とし、振りかぶった大剣をしっかりと握り締めたアリスは、ずっと力を込めながら待っていた。
よし、とエースがその場を明け渡した直後。ぶんと全力で振り下ろされた大剣は、勢いを威力に変えて豪快にクシャルダオラの頭部を叩き潰した。

バリンと大きな音を立てて、龍の角が砕け散る。毒と痛みに朦朧とした意識の中で、クシャルダオラはおののいていた。

「やった!」

「っしゃあ!」

風の鎧に存分に苦しめられた二人は、思わずハイタッチを交わした。これで、心置きなく攻める事が出来る。

「このまま一気に行こう!」

ラビの声と共に、鳴り響く銃声。ぐぐっと前脚に力を込めて立ち上がろうとする龍の胸を、ボウガンの弾が貫いていった。

アリスは広げられた翼へ、エースはしなやかな尾へ。それぞれ斬撃を加えていく。クシャルダオラが完全に毒素を中和した後も、討伐へ向けて手を休めなかった。

だが、次の瞬間。己の身に降り懸かるもの全てを振りほどくように、クシャルダオラは大きく体を揺さ振った。龍の傍に居たアリスとエースは巨体にドンと突き飛ばされ、ぬかるんだ地面に倒れ込む。

「くそっ、しぶとい奴だな!」

頬に着いた泥を袖口で拭い、エースは直ぐさま立ち上がった。しかし、彼の近くに倒れたアリスは、地に伏せたまま起き上がってこようとしない。
異変に気付いたエースは彼女の元へ駆け寄り、その肩を掴んで上体を起こした。

「おい、どうした!?」

「ごめん……急に、力が……」

アリスの手足はもう、思うように動いてくれなかった。連戦の疲労と受けたダメージが重なって、彼女の体力はすでに限界に達していたのだ。

エースは彼女の身体をぐいっと引っ張り、側に立つ木の根本にもたれ掛るように座らせる。アリスは切れ切れの息に肩を上下させ、眉間に皺を寄せて体中の痛みに耐えている様だった。

「……大人しくしてろ。後は俺らがやる」

返事もままならぬアリスは、薄く開いた瞳でエースを見つめる。彼女が僅かにコクリと頷いたのを確認してから、エースは戦線へと舞い戻って行ったのだった。

その頃ラビは、クシャルダオラがアリス達の方へ向かわぬよう、龍の注意を引き付けていた。
絶え間無く撃ち抜かれた龍の翼膜は、既にボロボロである。これではもう、飛んで逃げる事は出来ないだろう。突進攻撃を繰り出す足取りも覚束ず、その姿は明らかに死期が近いと物語っていた。

「ラビ!弾、足りてるか!?」

ラビの背後から、エースが駆け付ける。二人は横に並んで立つと、視線を龍に向けたまま拳を突き合わせた。

「大丈夫だ。調合分も多めに持って来ている」

「相変わらず頼もしいねぇ」

こうやって共に戦線に立つのは、何ヶ月ぶりだろうか。互いに相手の実力をよく知っているからこそ、戦いにおける信頼がそこにあった。

「それよりアリスは?」

「……かなり苦しそうだった。早いとこやっちまおうぜ」

「ああ、もちろんだ」

「援護頼む」とラビに一言告げて、エースはクシャルダオラへ向かって走り出した。

迫るハンターを返り討ちにするべく、龍はスゥと息を吸い込み風のブレスの構えを見せる。だが、それを阻止すべく放たれたボウガンの弾が、龍の喉元に突き刺さった。
激痛に怯むクシャルダオラ。その隙にエースは龍の懐に潜り込むと、大きく開いた足にぐっと力を込めて腰を落とした。

「はぁっ!!」

力を溜めた足のバネを存分に解放し、身体を捻りながら跳び上がる。双刃は龍の胸を捩り斬り、鋼の鱗が散った。エースは着地してすぐ更に跳び上がり、もう一度回転斬りを見舞ってやった。

グアァァァッ!!

クシャルダオラの悲痛な鳴き声が、森中に儚く消えていく。
腹から顎の下まで、くっきりと二重の傷痕が刻み付けられた龍の目は、もはや生気を帯びていない。完全に沈黙した巨体が傾き、泥道にずしりと沈むと大量の雨水が跳ね上がった。

「ハァ、ハァ、やったか……」

上がる息が苦しくて、エースは鼻と口元を覆うマスクを首まで引き下げた。ひんやりとした風と冷たい雨が、火照った頬の熱を奪っていく。

「討伐完了だな」

フウと息をついてから、ラビはその背にヘビィボウガンを担ぎ直した。そして倒れたクシャルダオラに一瞥もくれずに、アリスの元へ向かって駆けて行く。

「アリス、大丈夫か?」

傍に膝を着き、彼女の兜に手をかけてそっと抜き取ると、俯いたままの頬に金の髪が流れ落ちた。
覗き込んだ顔は苦痛に満ちており、ゼェゼェと嗄れた息を吐き続けている。

「待ってろ。今、薬を……」

火竜の兜を傍らに置いて、ラビはアイテムポーチから秘薬を取り出す。蓋を開け、片手をアリスの後頭部に添えて上を向かせると、瓶の口を彼女の青ざめた唇に当てがった。

口内に流れ込む苦い液体にむせ返りそうになりながら、アリスは全て飲み干した。少しずつ身体の痛みは和らいでいき、先程まで虚ろだった瞳にも光が戻っていく。
息も徐々に整い、アリスは顔を上げてラビと目を合わせた。

「ありがと……ラビ」

「立てそうか?」

「もう少し、休めば……」

ザッザッと砂利を擦りながら近付く足音。こちらに向かって来る彼を、アリスはラビの肩越しに覗き込んだ。

雨に濡れ、泥に塗れて真っ黒になってしまったフルフルの防具と、すっかり切れ味の落ちた双剣。改めて見たエースの姿は、何とも情けないものだった。

「酷い格好……だね」

「お前だってそうだろ。鼻の頭に泥ついてんぞ」

「エースだって。それにラビも、頬っぺた真っ黒」

「ああ、俺も泥だらけだ」

ほら、とラビは足元を指差す。彼のブーツには、落ち葉混じりの泥がびっしりと付着していた。
子供が盛大に泥遊びをした様な有様に、三人は笑い合う。そこで漸く、狩猟の緊張感から解き放たれたのだった。

「でもよ、何でラビがこんな所に居たんだ?」

どすっと地面に腰を降ろし、エースはずっと抱いていた疑問を口にする。アリスもその事に関しては不思議に思っていたので、うんうんと頷き同意した。

「ああ。伝書鳩で連絡を貰ってからずっと、街でアリスの到着を待っていた。だが、古龍観測所からクシャルダオラ出現の通達があってさ。他のハンター達がみんな出払ってしまっていたから、俺が討伐依頼を受けたんた。それでやって来てみれば、二人が奴に追いかけ回されていたから驚いたよ」

「その割には楽しそうだったけど」と、ラビは思い出し笑いを浮かべる。当の本人達は目を見合わせて苦笑していたが、実のところ必死過ぎて何を話したか覚えていなかった。

「ラビが来てくれて、助かったよね」

「いや、俺の方こそ。一人で討伐するつもりでいたから、苦戦必須だろうなと思っていたんだ。二人が居て良かった」

助かった事、無事に狩りを終えられた事。全ては重なった偶然のおかげだと三人は感謝する。

「……ねぇラビ、ヨモギは?」

姿の見えぬ小さなアイルーの事も、アリスはずっと気になっていた。ラビと一緒でないのなら、ヨモギの身に何かあったのだろうか。
そんな心配を抱くアリスに、ラビは笑顔で答えた。

「ヨモギ君は、君の帰りをずっと街で待っているよ。帰って来たらアリスの大好物を作ってあげるんだって、張り切っていた」

「そっか……良かった!」

「ヨモギ?誰だそれ」

首を傾げるエースに、アリスは「私の相棒!」とだけ告げた。

「ヨモギのご飯、すっごく美味しいんだから。あ、エースに食事を奢る約束してたっけ……。じゃあ、皆で食べようね」

「へえ、そりゃ楽しみだな。じゃあヨモギって奴が悲鳴上げるくらい食ってやるよ」

ニィと笑うエース。狩猟後の彼の底知れない食欲ならば、本当にヨモギが悲鳴を上げるかもしれない。
……やっぱり他で食事しようとアリスは言いかけたが、エースはすっかりその気だった。

「そろそろ街へ向かおうか。俺は早く、風呂に入りたいな」

ラビの提案に、二人はもちろん同意した。雨に濡れた身体は冷える上に、あまり長居をしていて他のモンスターに見つかったら一大事である。

「森を出た所に、俺が乗って来た古龍観測隊の気球が待っている。そこまで歩けるか?」

「ん……ちょっと肩貸してもらえるかな」

ラビはアリスの右腕を取って肩に掛け、腰に回した手で支えるとゆっくりと立ち上がる。身長差が有り過ぎて、彼の方が大分腰を屈めた格好になってしまったが、それでもふらつくアリスを支えながら歩き始めた。
そんな二人の後ろを、アリスの兜と剣を脇に抱えたエースが続く。

「やっと、街に着くんだ……」

ポツリと呟いたアリスの声はとても小さかったが、小降りになった雨のおかげでラビとエースの耳にはちゃんと届いていた。

思い返せば、長い、長い道程であった。予定よりも、随分と遠回りをしてしまった。

だが、それ以上に得た物は多かったはずだ。

「これからが本番、だな」

ラビの言葉にアリスは頷く。
ドンドルマはもう目前。
ラオシャンロン討伐に参加するという目的は、いよいよ現実味を帯びて来ていた。



第2章 終わり

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