MONSTER HUNTER*anecdote
ココット村のハンター?
「こんにちは!私、ハンターズギルドから派遣されて来たんですけど、村長さんはどこですか?」
少女は村に入るなり、近くを歩いていた女性に声を掛けた。
「えっ、ハンター……さん?あなたが?」
たまたま散歩をしていただけの婦人は、突然話し掛けられた事にも、彼女がハンターであるという事にも驚いている様子だった。
もちろん、飛竜討伐の為に街からハンターが派遣されて来るとは聞いている。だが、強大なモンスターを相手に戦うというからには、がっしりとした体格の男だとばかり思っていたのだ。
まさか、女だったとは。それも想像とは正反対な小柄な少女。婦人は呆気にとられたまま、村の奥を指差した。
「村長なら、あの大きな木の下にある家に居るはずだけど……」
「このまま真っ直ぐね。ありがとう!」
少女は行き先を確認すると、手を振りながらあっという間に走り去ってしまった。その後ろ姿を眺めながら、婦人はポツリとひとりごちる。
「あんな若い女の子がハンターなんて。都会じゃ普通なのかしら?」
未だに信じられないが、大きな街では当たり前の事なのかもしれない。どちらにせよ、待ちに待ったハンターが到着して一安心だ。今夜はゆっくり眠れそうである。
そう思い直して、婦人は嬉しそうに家路に着くのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方で。年老いた村長は、目の前に現れた少女をじっと睨みつけていた。
自分はハンターだと、元気いっぱいに名乗り出たこの少女。確かにその姿はハンターの出で立ちである。だが……。
彼女が着ているレザー製の防具も、背中に担いだアイアンソードも、駆け出しのハンターがとりあえず買い揃える程度のものだ。飛竜を狩るには全く適していない、実にお粗末な装備だった。
それなのに何故か自信満々に立っているこの少女は、一体何者なのか。
「私はアリス。これから暫くお世話になります!よろしくね!」
一方的に自己紹介を続ける少女は、怪しむ村長の視線には気付いていないようだった。人懐っこい笑顔を浮かべながら、勝手に村長の右手を取って握手まで済ませている。
――確かにギルドから派遣されて来たと言った。ならばこの娘が、この村を救うハンターなのか……?
されるがままの村長は、いぶかしげに眉だけ引き攣らせた。街のギルドには、確かに腕の良いハンターを頼んだのだ。さぞ立派な装備を揃えた熟練ハンターが派遣されて来るのだろうと、信じていたわけだが……。
――もしやこの女、相当な実力者なのか?この程度の装備でも充分やっていける力があるのだとしたら、妙に自信たっぷりなのも頷ける……。
きっとそうに違いない。
きっとそうだと思いたい。
村長は自分の考えにうんうんと頷くと、皺だらけの顔をもっとくしゃくしゃにしてアリスの方を向き直った。
「よく来てくれた、ハンター殿!ココット村一同、そなたを歓迎するぞ!」
「えっ。嬉しいけど、それはちょっと大袈裟すぎない?」
アリスは照れるからやめてと両手を振る。だが、その顔はまんざらではなさそうだ。
「到着早々で申し訳ないんじゃが、早速、例の件に取り掛かって欲しい」
そう言って村長は、胸元のポケットから取り出した狩猟依頼書をアリスに突き出した。折り畳み線が幾重にも重なった洋紙。おそらく、これまでに何度も眺めては溜息をついてきたのだろう。
「今から?ここまで来るのに大分疲れちゃってるんだけどなぁ……。まぁいっか、ささっと終わらせちゃうね!」
アリスは村長から依頼書を受け取ると、軽く皺を伸ばしてから視線を落とす。
上部に大きく『WANTED!!』と書かれた依頼書には赤い竜のイラストが描かれており、ターゲット名や報酬内容が事細かに記載されていた。
「狩猟対象は火竜リオレウス、と。うん、楽勝楽勝……って。
えぇぇぇぇぇっっ!?なっ、何コレどういう事!?」
村中に響き渡る少女の声。こっそり物陰から様子を伺っていた村人達も、思わず何事かと飛び出して来てしまった。
「ねぇ、どういう事!?相手がリオレウスだなんて、聞いてないよ!」
「……いや。わしがギルドに依頼したのは、間違いなくリオレウスの討伐じゃが……」
その場に居合わせた全員が、瞬時に青ざめた。これは、信じ難い間違いが起きてしまったのかもしれない。嫌な予感に村長の顔は引き攣り、震える体は今にも腰をぬかしてしまいそうだった。
「私は、ココット村の周辺で暴れているブルファンゴを狩って来いって。ギルドにそう言われて……」
ブルファンゴとは、初心者ハンターが相手をするには調度良い小さな猪である。アリスも今までに何度か狩った事があり、一つの群れ程度なら一人で殲滅できる自信があった。
だがリオレウスが相手などとなっては、丸っきり話が違う。かの竜は、並大抵のハンターでは歯が立たぬほど強く、恐ろしいモンスターであるのだ。
困惑する少女と、固まる村の者たち。
暫しの沈黙の後、はっと我に帰った村長は、隣に建つ立ち飲み酒場の中で唯一呑気に欠伸をしている受付嬢を見遣った。この酒場はハンターが依頼を受注するギルドカウンターの役目も兼ねており、彼女は街のギルドとの仲介役。退屈そうにしているが、れっきとしたギルドの役人である。
今回、ハンターの要請書を作成し、街に提出したのは他でもない彼女だ。要請とは異なる事象が起きている現状、連絡をとる過程で何か手違いがあったのならば、すぐに確認してもらわねばならない。
村長は受付嬢の元へ向かって、一目散に駆け出した。老体に似合わぬその速さに驚きつつも、アリスは彼に続いて走りだした。
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