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MONSTER HUNTER*anecdote
仲間だから(前編)
アリス、ヨモギ、ラビの三人で狩りに出る様になってから、数日が過ぎた。
経験豊富なラビの指導の元、アリスは着実にハンターとしての知識と実力を身に付けていく。それに伴い、実戦の場数もどんどん増えて行った。

彼女が目的とするラオシャンロン討伐戦に参加出来るようになる日も、そう遠くは無いとラビは考えていたのだった。


「ハンターさん!今日は良い知らせがありますよ!」

依頼を受けにやって来たアリス達を見るやいなや、ギルドの受付嬢は得意げな笑みを浮かべた。

「なになに?面白そうな依頼でも来た?」

「んー、面白いかどうかは分かりませんが、新しい狩猟区域が解禁されたのです!」

受付嬢は誇らしげに胸を張り、ギルドからの通達書を高々と掲げる。それを見たアリスは思わず「やったー!」と叫んでいた。

ハンターが狩猟に出ても良い区域は、その者のハンターランクによってギルドが制限をかけている。これは、何も知らない新米ハンターが、勝手に危険区域に行って命を落とさぬよう配慮された定めである。

実力を付け、経験を積み、実績をギルドに認められなければハンターランクは上がらない。厳しい環境下で行う難度の高い依頼に挑むには、下積みが重要なのであった。

つまり、今回アリスに新しい狩猟区域が解禁されたという事は、彼女のハンターランクが上がったという事を意味していた。

「アリスおめでとニャ!」

「よかったな、おめでとう」

素直に喜ぶアリスに、仲間達は心からの祝福を贈った。

「で、新しい狩猟区域ってどこだニャ?」

「えーっとね……」

アリスは、受付嬢から受け取った通達書の字面を追う。

「火山、だって」

「なんだか嫌なニオイがする言葉ニャ……」

灼熱の大地に吹き出すマグマを想像して、ヨモギはぶるると身震いした。過酷な狩りが待ち受けていそうである。

「ね、ラビ。どんな所?」

アリスとヨモギは、揃ってラビを見上げた。ハンター歴も長く、アリスよりも遥かにランクが高いラビは、もちろん火山にも行った事があるだろう。

「どんな所と聞かれても……名前の通りだよ」

「……だよね」

「行って実際に見た方が早い。火山行きの依頼はあるかな?」

ラビがそう尋ねると、受付嬢はクエストボードに貼り付けられた依頼書を見回す。そう数が多い訳でもないのに、どんな依頼が来ているのか把握していない辺りが彼女らしい。

「あっ、ありました!これですね、グラビモスの捕獲です」

「グラビモス……?」

先日読んだモンスター図鑑に、そんな名前の竜が載っていた気がする。アリスは記憶の糸を辿ってみた。

「確か、火山や沼地に生息する飛竜種で……。硬くてぶ厚い外殻に覆われた、でっかい奴よね?高熱のガスとか催眠効果あるガスを出すんだっけ?」

その通り、とラビが頷く。

「弱点は覚えているか?」

「えーーっと……。水属性、だよね?」

「よくできました」

ラビは嬉しそうににっこりと笑うと、アリスの頭をくしゃくしゃに撫で回した。出来の悪い生徒が、とうとうテストで良い点を取って来てくれた気分である。今までくじけずに、根気よく教え続けてきた甲斐があったものだ。

「じゃあアリスのあの剣の出番ニャね!」

「あの剣?あ、そうそう!」

ヨモギの言葉によってある事に気付いたアリスは、上機嫌で自宅に走って行く。そして再びギルドカウンターに戻ってきた時には、その背に別の大剣を担いでいたのであった。
それは、あの狩り勝負の日に討伐したガノトトスの素材で作られた大剣だった。水竜の蒼いヒレを利用した刃はとても美しい。

「“蒼剣ガノトトス”!綺麗でしょ?これ、気に入ってるんだ〜」

嬉しそうに語るアリス。
「ヨモギに言われるまで忘れていたくせに」と、誰もが心の中で思っていた。

「……行こうか」

「……ニャ」

毎度調子の良い彼女に半ば呆れながら、ラビとヨモギは村の外へ向かって歩いて行く。

「あ。そういえば、ジジィどこ行ったの?今日はまだ見かけてないんだけど」

いつもキセルをふかしながら座っている場所にも、村長の姿が無い。アリスはその事が気になって、受付嬢に問い掛けた。

「あーー……。えっと、村長さんは……そう、お出かけ、です」

明らかに棒読みで、不自然な受け答え。その表情もぎこちない。

――? ま、いっか……。

アリスは首を捻りながらも、先を行く二人を追いかけて行くのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


溶岩が煮えたぎる灼熱の大地は、想像した通りの光景だった。今にも噴火しそうな火口はふつふつと沸き、洞窟内の温度は異様なまでに上昇している。時折地面から吹き出す蒸気が、ハンター達の行く手を阻む。

「あ、暑い……」

火竜の鎧の下を、ダラダラと汗が流れた。蒸れた兜の不快感といったらない。
アリスはハァハァと肩で息をしながら、火山の内部を進んで行く。

「まさかとは思うが、忘れてないだろうな?」

暑さに顔を歪めるアリスとは正反対に、ラビは涼しげな顔をしていた。何かを疑う彼の視線が、アリスに突き刺さる。

「クーラードリンク……忘れまし、た」

ラビは今までで、1番大きな溜息をついた。そして自分のポーチから予備のクーラードリンクを取り出し、彼女に渡してやった。

火山や砂漠といった、気温の高い場所で活動する時には必要不可欠なはずなのに、どうして忘れてしまうのだろうか。ラビは不思議でたまらなかった。

「ごめんね、ありがとう」

申し訳なさそうにアリスは呟き、受けとったクーラードリンクを飲み干した。体に帯びた熱が、ゆっくりと冷やされていく。

「アリスは忘れ物の名人だニャ」

「……それ、嬉しくないから」

「ほら、さっさと行くぞ」

先程の報われた気持ちは何処へやら。もっと厳しく教えるべきだろうかと、ラビは頭を抱えたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


火山内部を進むうちに、三人は広く開けた場所に出た。そこで、ズシンズシンと足音を立てながら、ゆっくりと歩を進めるグラビモスの姿を見付ける。
その巨体は、長い年月をかけて岩の様に硬化した甲殻で被われていた。刃を通さぬ強度の身体から、別名・鎧竜と呼ばれている。

グラビモスに気付かれぬよう岩影に隠れながら、ラビは改めて今回の依頼内容の確認とった。

「今回は捕獲だからな?討伐したら失敗になるぞ。やり方は、分かるよな?」

「もちろん!弱らせて、罠で動きを封じて、捕獲用の麻酔をかける!」

自信満々に答えるアリスに、ラビは力強く頷いた。

「俺が奴の腹を破壊する。甲殻の下の肉質が見えたら、そこを狙うんだ。それまでは尻尾を攻撃。できれば切断まで持って行こう。」
「分かった」

「了解したニャ!」

三人は小さく互いの拳を打ち合わせると、岩影から飛び出して行く。
直ぐにハンター達の気配に気付いたグラビモスは、大きく身体を揺らしながら咆哮を轟かせた。

アリスはまず、用意したペイントボールをグラビモスの白灰色の背に投げ付ける。マーキングは彼女に与えられた役目の一つであった。

グラビモスは溶岩の中でもお構い無しに、突進を繰り返す。数ある飛竜の中でも1、2を争うその重量。巻き込まれれば、ただでは済まされないだろう。アリス達は鎧竜の攻撃を回避しつつ、攻撃を開始していった。

いつもと変わらず、冷静に射撃を繰り出していくラビ。精確な腕前と鮮やかな立ち回りは、いつ見ても見事だとアリスは思っていた。
今日まで彼と共に様々なモンスターを狩りに行ったが、ラビはかすり傷一つ負う事無く狩猟を成功させてきたのである。

ヨモギが懸命に樽爆弾を投げ付ける中、アリスもグラビモスの尻尾切断を狙って大剣を振るい始める。堅固な甲殻はなかなか刃を通してくれないが、それでも諦めずにダメージを蓄積させていった。

グラビモスは尻尾を左右に大きく振って抵抗する。先端が大きく膨らんだその形状は、まるでハンマーのようである。アリスは落ち着いてそれを避けると、大剣をもう一度振り下ろした。

その瞬間、今までとは違う感触が手に伝わる。甲殻に阻まれて通らなかった刃が、明らかに深く沈んだのである。

――いける!

確かな手応えを感じ、アリスは甲殻に割り込んだ大剣にさらに力を込めた。尻尾を切断してしまえば、グラビモスの戦力を大幅に削ぐ事ができる。そうすればラビやヨモギも、ずっと動きやすくなるに違いない。

アリスは一度大剣を引き抜き、改めて振りかぶった。そして仲間の役に立ちたい一心で、思い切り斬撃を繰り出す。
しかし……。

「アリスっ!離れろ!」

ラビの声がした途端、グラビモスの身体から真っ白なガスが噴き出してきた。それが一体何なのか、アリスはその身をもって知る。

――催眠ガス!しまった……!

直ぐさま息を止めても、時すでに遅し。肺に到達したガスの作用により、急激に意識が薄れていく。睡魔に打ち勝つ事が出来ず、アリスの体はぷつりと糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちた。

グラビモスの足元に横たわる彼女は、竜からすれば恰好の標的である。寝息を立てるアリスに追い打ちをかけるように、その身体から高熱のガスを噴き出そうとしていた。

「アリスー!!起きるニャ!」

「まずい……!」

ラビは何の躊躇いもなくヘビィボウガンを放り出し、一目散にアリスの元へ駆け寄る。そして鎧竜の身体から徐々にガスが吹き出し始める中、眠らされた彼女の体を思い切り払い退けた。

近くにあった岩に背中を打ち付け、アリスは意識を取り戻す。僅か数十秒の途切れた記憶。何が起きたのか把握するよりも早く、ラビの悲鳴が響き渡った。

「ラビ……!?」

アリスの背筋にぞくりと嫌な汗が流れる。
次の瞬間。彼女の瞳に映ったものは、高熱のガスを浴びて煤にまみれ、無惨に地に伏せたラビの姿であった。

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あきゅろす。
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