ロストウォーリア短編 夏祭りの楽しみは/前半【はゆメグ】 今日は、市場のほうで夏祭りが開催される。 仲間たちは関心がないみたいだが、僕らは行くことにしている。 だって、普段はなかなかできない、二人っきりのデートだから…。 「お待たせ、はゆたん!」 鮮やかな向日葵を散りばめたパステルピンクの浴衣に身を包み、着崩れしないよう歩幅を小さくして移動する唯凪。 今時、こんなに可愛い和風美人は女子でもいないだろう。 「どう?似合ってる…?」 浴衣に合わせて着けた向日葵の髪飾りが、夕日を浴びてきらきらと輝く。 僕にはもったいないほどの美しさ…隼遊はそう思ってしまう。 「すっごく似合ってるよ、メグ」 「でもはゆたんもかっこよくなってる…!」 唯凪の選んだ淡い水色の甚平。隼遊のために作られたのかと疑うほど、色も形もぴったりであった。 そんな隼遊の腕に抱きつく唯凪。早く夏祭りに行きたいという様子だ。 「早くしないと、売り切れちゃうんじゃない?ほら、去年はかき氷も食べられなかったし…」 去年は屋台をほとんど回れず、結局コンビニまで行ってパンやおにぎりを買って食べたのだ。 今年はそんなことさせない…。唯凪はそう決意していた。 「そうだね、今から行けば5時半には着くし…じゃあ行こうか」 「うんっ!」 二人は市場まで歩き始めた。 「ねえねえ、次りんごあめ食べたい!行こう!」 「ちょ、ちょっと待って…!」 浴衣が乱れないように駆けていく唯凪。ついて行くのに必死な隼遊の手には、焼きそば、お団子、フランクフルトなど、たくさんの食べ物があった。 「はぁ、はぁ…浴衣なのに速い…」 「ありがとうございます、お兄さん!」 隼遊が唯凪のいる場所に着いたときには、唯凪はもう支払いを済ませてりんごあめにかじりついていた。 「ん、ふぁ…お、おいひい…」 妙に色っぽい食べ方を見せつけてくる唯凪。心なしか顔も真っ赤に見え、それはいつも僕にしているような―いや、こんなところで何を考えているんだ、と隼遊は必死に理性を働かせていた。 「ひゃ、んぅ…んぁ、あ…」 これは完全に狙っている。たがを外そうとしている。しかし、食べるのに夢中になっている唯凪は、隼遊の脳内と下半身が大変なことになっているのを知らない。 鎮まれ、鎮まれ…そう念じていると、唯凪も食べ終わったようだ。 「んっ……はぁ、美味しかった…」 ひとまず危機は脱したようだ。…しかし。 「次、フランクフルト食べたいな…1本ちょうだい?」 すでに買っておいたそれを渡すと、またもや声を上げながら食べ始める唯凪。 さすがに理性が切れてしまう…それを悟った隼遊は、 「む、向こうのテーブル席で…焼きそば食べてくるね」 と言い逃げるが、唯凪は諦めなかった。 「僕もそっちに行くー!」 しばらく、隼遊の戦いは続きそうだ。 「ねえねえ、大きなわたあめだって!一緒に食べよう?」 「いいよ、プレーンのでいい?」 唯凪が見つけた「隠れた名店」。2人で食べてやっとのサイズのわたあめが、何と120円で売っている。 そして、そこにいたのは…。 「すみませーん!」 「あら、唯凪ちゃんじゃない!」 赤ちゃんをおんぶしながら出てきたのは…昴。雑貨屋の後継ぎ息子と結婚し、子供を産んでから、ますます綺麗になった唯凪の元同僚だ。 「昴ちゃん!わたあめ1つ!」 「君たちには特別に100円であげちゃうよ」 気前のよい昴は小声でそう言う。今回は、その言葉に甘えることにした。 2人で50円ずつ出して、わたあめを1つ受けとる。 「ありがとうございました!あっ、そこの雑貨も見ていってね、私の手作りのもいくつかあるから」 「そうなんですね…あの、これください!」 隼遊が手に取ったのは―オレンジと水色のシンプルなアンクレット。2つセットで700円と、手作りにしてはかなり安い。 「それ、唯凪ちゃんたちにあげようと思ってたんだよね…だから、タダでいいよ」 「そ、そんなの…こっちが申し訳なくなるから…」 「そうですよ、払わせてください…」 結局、400円で買うことにした。 「ありがとう、また来てね!」 そろそろ帰る時間も近づいている。 しかし、彼はこのチャンスを逃がしたくないそうだ。 かき氷を片手に話す相手に否定意見を言い…。 [*前へ][次へ#] |