ロストウォーリア長編 蒼杏/馴れ初め1 あれ、ない…。おかしいなぁ。 電車を降りてすぐ、俺―蒼月は自分の財布がないことに気づいた。 数分前に確認したときは確かにあったはず…となると、盗難…? すると、 「おらぁっ!」 ガンッ、という音とともに、男性の叫び声が聞こえた。 見ると、癖毛の長身男性が、数人の男子校生を叱っているようだった。 「早く返してやれや!」 「す、すみませんでした…」 中心人物らしき男子校生が、鞄から何かを取り出した。 それは…俺の、財布!? 癖毛の人はそれを奪い取ると、俺のところまで走ってきてくれた。 「これ…貴方のですよね?」 優しい笑顔で俺に言う彼を見て、鼓動が早まる。 「は、はい…ありがとうございます」 「どういたしまして…」 彼のほうも顔が赤い。可愛い…とか思ってしまった。 食事でもご馳走させてもらおうかな…。いや、それは重いか…? 「では、俺は用事があるので失礼します」 考えているうちに、彼はそそくさと帰ってしまった。 また会えるといいな…。そう思いながら娘の待つ家へと足取りを早めた。 [次へ#] |