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01


1.蒼




遠い所で蓮華草が揺れている。
ひどく懐かしい芳香をたどって手を伸ばすけれど、隣りの君がわたしをそっと引き寄せてそうさせない。

わたしの居場所は此処なのだと君が示すのだ。
(ほんとうにそうなの?)


嬉しいはずなのにわたしの瞳は震えていた。君の手を振りほどいていってしまうのはわたしのせいなのだろうか。


見上げた君の眼は深い藍色を滲ませて、ただひとこと呟いた。



(其方はもう何も視なくて善い)


…ほんとうに、そうなの?






序.


十三番隊 隊首室『雨乾堂』

「…薬臭い」
わざとらしく鼻をつまみながら御影が言う。
「そう言うな。慣れれば気にならない。むしろ落ち着くぞ?」
「…感覚麻痺してるソレ」

そうか?うーん、そうかもなあ。 と穏やかに談笑するのは御影の上官である、護廷十三番隊隊長 浮竹十四郎。

御影は長年彼の下で働いているが、どうもこの匂いは敬遠しがちである。いやきっと誰もが好む類いの匂いではないだろう。
彼の部屋には大きな薬棚があり、整然と薬という薬がすべて揃っているのだ。

御影はふう と息をついて茶を啜る。茶は好物の玉露だったが、一口含んで顔をしかめたのは仕様のないことだった。

(何を口に入れても薬風味で参るよ)



「…まあいいけど…ルキアが懺罪宮に移送されたんだとさ」
「…!そうか…あと十四日か…」
「準備は?」
「進言は通らなかった。…もう手段は限られている。となると、少なくとも十日はかかるだろう」
「十日、ね」

丸い窓から外を見やると、リン、と鈴が柔く鳴る。
長い御影の黒髪を首の後ろでひとつに束ねる髪留めに装飾された小さなふたつの鈴だ。





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