紅葉こいき/もみじこいき/短編 戦場下の少年弐(裏) 少女は『僧侶長候補』でした。 人々に教えを広め、人々を救うこの仕事に、誇りを持っていました。 ある日、少女の村に、戦争の火花が降りかかりました。 村人は無惨にも殺され、神殿にも敵は入ってきました。 少女は棚の下に隠れて、ひたすら祈りを捧げていました。 やがて、静かになりました。 用心しながら棚から出ると、そこは赤い世界でした。 神殿内に、少女以外に動く物がありました。 血塗れの少年でした。 「あぁ、まだ生きている方がいたのですね」 少年は微笑みながら少女を見つめました。 少女は吐き気を覚えて、その場にしゃがみ込みました。 「えぇと、シスター?ですよね? こんな血生臭い所に長居は無用です。 安全な所にお連れするので、こちらへ……」 「どうして笑っていられるの!?」 泣きながら少女は叫びました。少年は困った顔で肩をすくめます。 「こうでもしなきゃ生きていられないから、かな」 少年は寂しそうな顔でした。 「……えてよ」 「え?」 少女は、近くにあった剣を握りました。 「私の前から消えてよ!」 少女は持った事のない重い鋭器を振り回し、少年へ駆けました。 少年は手元にあった剣を拾い、その刃を止めました。 「何、するんですか」 「消えなさいよ! あなたを見てると吐き気がするわ!」 少年が刃を弾くと、少女は転びました。 少女は体を起こし、剣を握ろうとします。 しかしその喉元に剣が突きつけられました。 「済みません、動かない方がいいですよ。手元不如意なのでぱっくりいきますから」 少年の笑顔に、少女は怒りを覚えました。 「これ以上敵対行動を取ると、僕はあなたを敵と見なさなければならない」 少年は剣を降ろし、捨てました。 「自分の立場を弁えて下さい。 分かったなら、ついてきて下さいね」 少年は、背中を向けて、出口へと歩き出しました。 少女は震えた手で、剣を握りました。 怒り、憎しみ、悲しみ、悔しさ、嘆き。 全てが少女の胸の内に広がりました。 「……敵と見なして、いいんですね?」 振り返った少年の顔は、もう笑っていませんでした。どこか悲しそうな顔をしています。 「お願い……消えて」 少女の願いは 少年が去った神殿は静かでした。 少女には立ち上がる力もありませんでした。 ただ、少年の去った出口を見つめています。 置いていかれた悲しみが溢れ出しました。 「馬鹿じゃないの……」 その言葉は誰に向かって発せられたのか。 今の少女は、ひたすら祈りを捧げていました。 少年が、死なないようにと。 [*前へ][次へ#] [戻る] |