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紅葉こいき/もみじこいき/短編
戦場下の少年(裏)
「出兵だ」

 兵士がざわめき始めます。

 頭を抱えて悩む人、悪態をつく人、通夜のように頭を下げて黙りこむ人。誰も、嬉しそうな表情はしていませんでした。

 壁際に座る少年は、僅かに眉を上げました。それから何事もなかったかのように冷めたスープを飲みます。

 死ぬ事は恐れる事。しかし、いつも死とは隣合わせで立っています。
 今更緊張する事でもない、と少年はスープに目を向けます。

 もし最後の食事がこれだとしても、悔いはないかもしれない。

 少年は最後の一滴まで残さず飲みました。


 武装をして戦場に向かいます。

 若くして小隊長を務めている少年は自兵を率いて向かいました。



 戦況は言い難い状況でしたが、どちらかと言えば少年の国の方が有勢でした。

 しかし少しずつ、少年の率いていた兵士が倒れていきます。

 新しい策を練っている時、少年は足を掴まれました。

 後ろを振り返ると、崖の所から人の顔が少年を睨んでいます。

 足を引っ張られ、小さな崖を少年は転がり落ちました。
 誰も、その事に気付きませんでした。



 いくつも傷や痣を作った少年が顔をあげると、男が剣を向けていました。

 凛々しく、しかし小皺が目立つ男は、少年を見て眉を寄せました。

「子供だったのか」

 少年は何も言いません。
 男も、少年に剣を向けたまま、黙っています。

 この男に殺されるのだろうか。少年は唇を噛みしめます。
 このまま殺されてしまうと、と少年は考えます。
 同胞に会えなくなる。国の為に戦えなくなる。人々を導く力を持つ偉大な君主の為に働く事が出来なくなる。

 やり残した事はたくさんある。しかし、全てをやるのは不可能だという事も、少年は分かっています。


 ならいっそ、早く無くなってしまえばいい。全て無くなればいい。


「どうして殺さないのですか」

 少年は男に問いかけました。少し怒っているような言い方をします。


「君は……」男は口を開きました。握っている剣が震えています。

「君は、生きたいか」

 男の不思議な問いに、少年は口を開きました。


 死んでしまうと何も残らない。何も出来やしない。
 終わりが近いか遠いか。それだけのはずなのだが。

 同胞と共に国に仕える為、君主の理想を信じ、変わる世界を見る為、何より自分の為。







「生きたいですね」

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あきゅろす。
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